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映画『ランニング・マン』の音楽が突きつける、今日のメディア環境への警句

2026.1.28

#MOVIE

レトロフューチャーなビジュアルイメージと音楽のギャップ

まず、先のあらすじ紹介でも述べた通り、この映画の舞台となる近未来においては、巨大メディア企業が社会全体を牛耳り、情報インフラはおろか、法執行機能を含めた国家権力をもその手中に収めている。そこでは、AIを駆使したフェイクコンテンツの生成や拡散が、当のメディア自身によって司られており、人々はそのコンテンツに流されるがまま、感情を操作されている。そして、スケープゴートたる「ランニング・マン」へ憎しみを向けることで、社会的な不満を抑圧されているのだ。

「ランニング・マン」のMC、ボビー・T(コールマン・ドミンゴ)と出場者たち / ©2025 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

不正の存在を黙殺できない無辜の市民であるはずのベンが、番組のプロデューサーであるキリアン(ジョシュ・ブローリン)の策動によって大衆の憎しみの対象となり、それによって番組の視聴率(=アテンション)が上乗せされていく様は、単なるうそ寒い気持ちを超えて、私たちが現実に体感している現下のメディア生態系の弊害を想起させずにはおかない。加えて、彼らメディアの支配者たちをはじめとする限られた富裕層の人びとが、スラムから離れたゲーテッドコミュニティで(弱者への無関心・無視とともに)華やかな日常を送っている描写も、単なるカリカチュアを超えた胸の悪い気持ちを起こさせる。当然ながら、彼ら富裕層の周囲に存在する建物や、身に着ける衣服、さらには乗り物から手にするデジタルデバイスに至るまで、全てが(見た目上)清潔で、最新のテクノロジーに彩られているわけだ。

対して、当のベンを含む民衆の多くが毎日の生活を送り、あるときはその中からベンに手を差し伸べる同伴者が現れてくるスラム街においては、カメラに映るあらゆるもの様子が、富裕層を取り囲んでいるものとは異なっている。彼らが乗るクルマは旧式のポンコツを改造したもので、各種のインフラもきわめて貧弱だ。街全体の色彩も暗く、ディストピア的なムードに包まれている。また、電子的デバイスの普及率も(ネットワーク社から監視端末として強制支給されるテレビ受像機を唯一の例外として)きわめて低く、ベンの逃走を助けようとする革命勢力の面々も、旧式のコピー機やVHSなど、いにしえのテクノロジーやメディアを駆使して草の根的な活動を展開している。

ベンの協力者となる一人、エルトン・ペラキス(マイケル・セラ) / ©2025 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

こうしたビジュアルイメージは、かつて1980年代に隆盛したSF / サイバーパンク系映画で描かれた、当時の最新技術(つまり、現在のレガシーテクノロジー)を交えた未来描写を彷彿させるものであることに気づかされる(前述の『バトルランナー』も、まさにそういう映画だった)。このようなレトロフューチャー美学は、「カセットフューチャリズム」とも呼ばれ、現代のノスタルジア指向と結びついて一部のサブカルチャー空間の中でカルト的な支持を集めているが、本作のプロダクションノートによれば、上述のようなスラム街シーンの美術では、明確にそうした「カセットフューチャリズム」の美学が意識されているのだという。だとするならば、先に触れた「清潔」かつ最先端のテクノロジーが溢れるアップタウンのイメージと、このようなスラムのイメージの自覚的な描き分けは、我々観客が本作の画面を見た際に支配層と被支配層の差異を即座に感得させるための美学的装置として機能していると理解することが可能だろう。

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