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久石譲初のハリウッド作『ビューティフル・ジャーニー ふたりの時空旅行』を読み解く

2025.12.18

#MOVIE

本作におけるポップミュージック使用と久石劇伴

本作には、久石のスコア以外にも、レイヴェイ(Laufey)やミツキ(Mitski)、Wilco、Bright Eyesといった思慮深いアーティストたちによる新録曲や既存曲が使用されている(久石をはじめ、レイヴェイ、ミツキといった東アジアにルーツを持つ音楽家が複数人参加していることも注目に値する)。特に、レイヴェイが描き下ろした本作のテーマ曲というべき“The Risk”、ミツキが歌うピート・タウンゼントのヒット曲“Let My Love Open the Door”のカバーバージョンは、その抑制的なムード、歌詞ともに、映画の内容とうまくマッチしていると言える。

しかしながら、それらの楽曲は、あくまで映画の外部からやってきて、その間に映し出される画面をミュージックビデオ的な奉仕の力学へと押し込めてしまっているようにも感じられるのだった。そうした力学の元では、音楽と画面が過度の密接を期待され、結果的に、感情のある一面のみを表象するに留まらざるをえないだろう。

久石のスコアは、そうした危険を巧みに回避して映画の内部へと慎重に滑り込みながら、時には画面に奥行きを与え、運動を与え、そして何よりも、本作が描こうと渇望しながらも(画面の力だけでは)ともすると空回りしそうであった、優れたファンタジーの成立に必要な豊かな情動の表出を、根源的な次元から助けているのである。コゴナダ監督が久石の仕事を評して、「同時にシンプルであり複雑でもある。感情のレイヤーを持ち、ダイナミックなリズムを刻む。(略)スコアが謎を生みながらも、人間の経験にしっかりと根を下ろしている」と語っている通り、そのことは、監督自身が最も鋭敏に感じ取っていたはずである。

『ビューティフル・ジャーニー ふたりの時空旅行』は、映画音楽作家・久石譲の類稀な才気を再確認させてくれる優れた実例といえる。そのことについては、かつて私に久石ミュージックの魅力を力説してくれた知人も必ずや首肯してくれるだろうし、いずれ彼に再会した際には、おそらく真っ先に本作の音楽について会話が交わされることになるだろう。

『ビューティフル・ジャーニー ふたりの時空旅行』

12月19日(金)より全国の映画館で公開
監督:コゴナダ
脚本:セス・リース
音楽:久石譲
出演:コリン・ファレル、マーゴット・ロビー、ケヴィン・クライン、フィービー・ウォーラー=ブリッジ
https://beautiful-journey.movie

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