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今こそ聴きたいブルース・スプリングスティーン、伝記映画から読み解く『ネブラスカ』

2025.11.14

#MOVIE

連続殺人犯の一人称視点で歌われるタイトル曲

他方、ブルースが自宅のテレビでたまたま目にするテレンス・マリックの映画『地獄の逃避行』(1973年)もまた、『ネブラスカ』の重要なインスピレーション源のひとつであることが知られている。この作品は1958年にネブラスカ州で実際に起きたチャールズ・スタークウェザーとキャリル・アン・フューゲートによる連続殺人事件が下敷きとなっているが、タイトル曲“Nebraska”の歌詞は、まさにこの事件の主犯であるスタークウェザーの視点から語られている。主人公の「俺」は、陪審員が有罪の評決下したあとの場面で、こう述べる(歌う)。

彼らは俺は生きるに値しないと断言し

俺の魂は地獄に投げ込まれると言った

彼らは俺がなぜこんなことをしたか知りたがった

ねえ、いいかい、この世には

理由なくただ卑劣な行為というものがあるんだ

ブルース・スプリングスティーン“Nebraska”
対訳:三浦久

本作の字幕では、「理由なくただ卑劣な行為」の部分には、「純粋な悪」という訳が当てられている。『地獄の逃避行』の主人公=キットとホリーは、二人の恋人関係に反対するホリーの父親を撃ち殺して家に火を放った後(ブルースがその場面を食い入るように観ているのも印象的だ)、あてどのない逃亡生活を送る。彼らは行く先々で無差別に殺人を犯して回るが、それはまさに、彼らが社会と意味のある繋がりを喪失していく中で、かつて抑圧していたはずの「純粋な悪」が不気味な奔放さをもって回帰していく様を描いていると考えることも可能だろう。マリックが過剰ともいえるほどの耽美的なショットで写し取っていくように、キットとホリーの目に映る世界の姿は、蜃気楼のようにぼやけ、はっきりとした輪郭を結ぶことはない(ように見える)。

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