メインコンテンツまでスキップ
NEWS EVENT SPECIAL SERIES

今こそ聴きたいブルース・スプリングスティーン、伝記映画から読み解く『ネブラスカ』

2025.11.14

#MOVIE

ブルース・スプリングスティーンは、アメリカでの高い認知と評価に反し、日本の音楽リスナーにとってはやや「とっつきにくい」存在かもしれない。“Born In The U.S.A.”しか聴いたことがない、という方も多いのではないだろうか。

映画『スプリングスティーン 孤独のハイウェイ』は、そんなスプリングスティーンのディスコグラフィの中でも異色作といえるアルバム『ネブラスカ』制作中の1982年前後にフォーカスした伝記映画だ。

スプリングスティーンの内面をドラマ映画の形で描いた本作は、ファンの期待に応えるのみならず、氏について今まであまりよく知らなかった(編者のような)人たちにとっても、ブルース・スプリングスティーンという存在についての理解を深め得る映画となっている。

スプリングスティーンの大ファンとして、これまでも氏の魅力を熱弁してきた柴崎祐二が、同作とアルバム『ネブラスカ』を詳細に解説する。連載「その選曲が、映画をつくる」第32回。

※本記事には映画本編の内容に関する記述が含まれます。あらかじめご了承下さい。

キャリアの中で異彩を放つアルバム『ネブラスカ』

ブルース・スプリングスティーンが1982年9月に発表したアルバム『ネブラスカ(Nebraska)』は、彼の輝かしいキャリアの中にあって、ひときわ特異な存在感を放ち続けている。1980年発表の2枚組大作『ザ・リバー(The River)』、およびそこからのシングルカット曲“Hungry Heart”でヒットをものにし、更には同作のリリースツアーを大成功の内に終えた彼は、周囲から早くも次作を渇望されるロック界随一の期待の星となった。

しかし、彼は疲れ切っていた。降って湧いたようなスターとしての生活や、周囲からの期待への戸惑いもあった。それ以上に、猛烈な勢いで活動を続ける中で目を背けてきた自らの内に蠢く不安が行く末を曇らせ、快活な気分に浸り続けることを許してはくれなかった。彼は明らかに不調を抱えていた。今自分はここで何をすればいいのか。何を歌えば良いのか――。

ブルースは、そのような日々の中でもニュージャージーの自宅で新曲を書き溜め、寝室に持ち込んだ4トラックのテープレコーダーを使ってデモ音源の制作を試みる。自身のアコースティックギターと歌を中心に最低限の楽器が重ねられたそのデモテープには、殺人を犯す罪人や、人生の苦悩に囚われた市井の人々をモチーフとした歌、そして、自らの幼少時代を題材とした歌などが収められていた。

当初彼は、このデモを元にE Street Bandの面々を交えたロックアルバムを作るつもりでいたが、一部の曲を除いてスタジオでの作業は満足のいくものとはならなかった。それどころか、元のデモテープにあった特別なオーラのようなものが、スタジオ録音では雲散霧消してしまっていると感じられたのだった。そこで彼は、全くの異例な方法ながら、件のデモテープに収録されている音源をそのままリリースすることにした。各曲の内容もまた異例だった。そこには、周囲から強く期待されていたような快活なロックンロール曲ではなく、沈鬱で深遠なフォーク調の歌が多く収められていた。

連載もくじページへ戻る

RECOMMEND

NiEW’S PLAYLIST

編集部がオススメする音楽を随時更新中🆕

時代の機微に反応し、新しい選択肢を提示してくれるアーティストを紹介するプレイリスト「NiEW Best Music」。

有名無名やジャンル、国境を問わず、NiEW編集部がオススメする音楽を随時更新しています。

EVENTS