INDEX
込み入った構造とファンタジックな設定
本作『アステロイド・シティ』は、ウェス・アンダーソンにとって通算11作目となる長編映画である。自身とロマン・コッポラによる原案を元に、脚本も自らが務めた。
まずは簡単に内容を紹介したい……のだが、いつもながらその設定はなかなか込み入っている。時代設定は1955年。「アステロイド・シティ」と名付けられた架空の新作舞台劇それ自体と、その劇の制作にまつわる舞台裏の模様、そしてそれを特集するテレビ番組……という並列的 / 入れ子的な構造をとっている。アンダーソン映画の常連である主役のジェイソン・シュワルツマンをはじめ、スカーレット・ヨハンソン、トム・ハンクス、ジェフリー・ライト、ティルダ・スウィントン、エドワード・ノートン、エイドリアン・ブロディ、スティーヴ・カレル、マット・ディロン、ジェフ・ゴールドブラム、マーゴット・ロビー他、超豪華キャストが縦横に入り交じり、複雑なドラマを奏でる。
「アステロイド・シティ」の舞台は、アメリカ南西部の砂漠に位置する架空の町だ。人口87人というごく小規模なこの町の中心には、モーテル、ガソリンスタンド、ダイナーがポツンと建っているのみ。少し離れたところには、紀元前3007年の隕石衝突によってできたというクレーターや、小さな天文台がある。その町へ、妻をなくしたばかりで悲嘆に暮れる(シュワルツマン演じる)オーギーと彼の子どもたちや、過去にトラウマを抱えているらしい(ヨハンソン演じる)コメディ女優ミッジとその娘ダイナらが、同地で開催されるジュニア宇宙科学賞の祭典のために訪れる。しかし、祭典の最中に思わぬ訪問者=宇宙人がやってきたことで、現場を目撃した全員が軍の命令によってアステロイド・シティ内に足止めされてしまい……というのがこの劇中劇のあらすじである。
一方で、先述した通り、その劇中劇の上演を巡る顛末も並行して描かれ、劇作家や演出家、俳優たちの繊細な人間模様が映し出される、という仕組みだ。
