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空間の魅力が、集う人たちによって保たれている
伏見にある黒茶屋というスペースのことを知ったのは友人のInstagramだった。数年前のある日、僕の友人で、京都Hachi Record Shop and Barのスタッフ・神谷ハヤトくんが素敵な場所でレコードをかけている写真が流れてきて、僕は目を奪われた。それで神谷くんに「そこはどこなの?」と聞いて教えてもらったのだが、Instagramのアカウントのどこにも住所は書いていなかった。聞けば、そもそも黒茶屋は普通の店ではなく、オーナーのcojiさんがイベントの際に不定期で空けている謎のスペースだった。

観光客の喧騒から外れた場所にある古い日本家屋に靴を脱いで入ると、リノベーションされた内装に目を奪われる。木造の質感を引き立てるような家具や調度品にときめきながら、吹き抜けになっている奥の部屋に進むと、手入れされた庭が見えてくる。吹き抜けの上にある窓や、庭に面したガラス戸から入ってくる日差しが生み出す開放感は格別だ。初めて訪れた際は思わず「すげぇ……」と声が出てしまったほど。こんな素敵な隠れ家のような場所が人知れず存在していたことに驚いた。

神谷くんはcojiさんと共にここで定期的に『SHELTER』というイベントをやっている。告知は黒茶屋もしくはcojiさん、神谷くんのInstagram。彼らのアカウントにメッセージを送ると、住所が送られてきて、ようやく場所がわかるという仕組みだ。
このイベントが開催されるのは、日曜の朝の10時から午後の3時まで。神谷くんがレコードやCDを持ってきて選曲をして、cojiさんがコーヒーを淹れる。来場者はそこでゆったりと自由な時間をすごす。誰かと語り合うなり、本を読むなり、ぼーっとするなり、といった感じだ。

わざわざメッセージを送って住所を聞かなければならず、しかも、街の中心部からは離れた場所までわざわざ行かなければならない。このハードルがこのスペースの雰囲気を守っているのだろう。
cojiさんと神谷くんは来場者を「お客様」として扱わないし、来場者の方もサービスを享受しようという態度ではない。この静かで穏やかで、ほっと息がつける環境が成り立っているのは、開放してもらったスペースを自由に楽しみながら、そのスペースの素敵さを保とうとする人たちが集えていることによるものなんだろうなと、行くたびに思う。そしてそれは、この建物じたいに、ここにまた訪れたい、この先も開放されていてほしいと思わせる魅力があるからなんだろう。
