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唯一無二の選曲、そのマジカルな魅力
JUHAはとにかくレコードのセレクトが変わっている。そもそもここで流れている音楽は、あまり他の店ではかからないものが多い。そして、トレンドとは無縁。同じような選曲傾向の店は全く思い浮かばないし、存在しないと思う。ここのBGMは文字通り唯一無二なのだ。

その特別な選曲を説明するのはやや難しい。最も簡潔に言うなら、X(旧Twitter)のプロフィールに書いてある「ジャズや戦前ブルーズやクラシックなど音楽をレコードでかけてます」ということになるだろうが、もう少し解像度を上げてみたい。
JUHAのInstagramには、ここでかけられているレコードの写真が日々アップされている。かなり昔のアメリカ音楽、もしくはアメリカのルーツ音楽に影響を受けた音楽が多く、ジャンルでいえば、ブルース、フォーク、カントリー、ジャズ、クラシック(小編成の室内楽)が中心。戦前(=第二次世界大戦前の1945年以前)の音楽がかなり選ばれていて、古いものでは1920年代のものもある。それ以外もだいたいが1970年以前のレコードだ。

いわゆる「ジャズ喫茶」では、基本的には戦後のジャズがかけられている。その理由のひとつにLPレコードが1948年に発売され、そのころから録音物の音質が一気に良くなったことがある。それ以前、つまりSPの時代は、どんな音源でもノイズがかなり含まれていた。ざらざらとした不鮮明な音で録音されていた上に再生するとパチパチと雑音が乗る。SPで出ていた音源をLPで再リリースした場合でも、決して鮮明な音で聴けるようになったわけではない。だから、クリアな音で聴けるLP時代(=戦後のジャズ)に慣れているリスナーにとっては、戦前のジャズは音質の面でハードルが高いものだった。そんな理由もあり、戦前の音楽が流れる店はなかなかない。
しかしJUHAでは、ジャズに限らず、ブルースやフォークからクラシックまで、戦前の音楽が日常的に流れている。でも、ここで流れていると、不鮮明な上にノイズが乗っているそれらのレコードがなぜだかさらっと聴けてしまう。むしろ、その古さに気づかないくらいに、ここではそれらがあたり前のものとして馴染んでしまっている。

戦前のレコードに、セピアの色の写真やモノクロの映画のようなノスタルジーを見出して、ロマンティックさを感じる人もいるだろう。ただ、JUHAで流れているのは戦前の音楽だけではない。1960年代のジャズだって流れるし、1970年代のクラシックが流れることもある。にもかかわらず、時代やジャンルが異なり、録音のコンディションが異なるレコードが自然に並んでいることに、全く違和感がない。古い音楽が殊更ノスタルジックに響くのではなく、それ以降の時代のレコードと共に、JUHAの世界観を作り出しているのだ。

フレッド・アステアのようなジャズボーカルが小粋に流れていることもあれば、ジャズアンサンブルの大家クロード・ソーンヒルがムードを作っていることもある。フォーク / ブルース系ギタリストのエリザベス・コットンが軽やかに流れていることもあれば、ジャズギターのレジェンドのエディ・ラングの華麗なテクニックが鳴っていることもある。ジャズとフォークを融合したクラリネット奏者ジミー・ジュフリーが流れていることもあれば、アコースティックギターの奇才ジョン・フェイヒィが奇妙に響いていることもある。その一つひとつはどれも個性が強いのに、それらが「JUHAっぽい音楽」として溶け合ってしまうようなマジカルな魅力がここにはある。
