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「ビジネスのテンプレートが決まっていて、そこにはめ込むしかやりようがないというか」(鈴木)
鈴木:ちょっと話が変わりますけど、音楽業界での仕事って、例えばうちの場合、次アルバムが出ます、レコーディングが終わりました、一生懸命作った曲たちが形になりましたさあツアーがはじまります! ってやっている時に、「じゃあ、次のアルバムは? その次は?」って言われるのですよ!
手島:言われますよねー。
鈴木:それが本当に「どうなん??」って思っちゃう。それこそ、アーティストへのケアが必要なんじゃない? ってちょっと思うんやけど。
手島:ビジネスだからっていうのはもちろんあるんだけれども、「本当にそのルーティンがこの人に合っているんですか?」ということをちゃんとスタッフとアーティストで話し合いましたか? というのは聞きたいですね。
鈴木:大体が、「1年1枚アルバムを出す契約」とかっていうテンプレートがあるんですよ。
手島:そのテンプレートが、ビジネスとしても本当に最大限利益を生むテンプレートなんですかって話なんですよね。僕も音楽業界でスタッフとして働いていた時に実は疑問に思っていたんだけど、このサイクルがアーティストに合っているんだったらいいですけど、合っていないんだとすると、むしろ利益を生まないということだってあるわけですよね。
鈴木:うん、ある。

手島:今の時代、例えばアーティストさんのスタイルによっては、必ずしもツアーとかやらないほうがいい人だっているわけですよね。アルバムがそもそもいるの? っていうことも、人によってはあるわけじゃないですか。ビジネスとして考えた時に、本当にそれがいるのかということを話し合ってみたかどうかは、結構大事だと思います。
鈴木:結局、テンプレートが決まっていて、そこにはめ込むしかやりようがないというか。こっちもマネジメントに言えないし、何か言うイコール才能がないのを認めるような気になるんよ。「うちは、3年に1枚しかアルバムを出せないペースなんで」って言ったら、自分を下げるというか、才能がないのを認めているみたいで口に出したくないし。
手島:才能あるなしというより、例えば農作物でいうと、その作物の育て方をちゃんとわかっているのか? っていうことだと思います。
鈴木:ああ、そうですね。でもその農作物、1種類しかないって思われている感じがする。
手島:なんかこう、その農作物に合っている気温なり、水の量なり、収穫時期なりっていうのがあるわけですよ。なんだけど、スタッフサイドが「この環境でこのペースで収穫したい!」とやっていると、それに合う人はいいけど、合わない人の場合は結局腐ったり。
鈴木:実がならなかったり。
手島:実がなったとしても小さかったり。もしかして、違う土壌で3年くらいかけて育てるとすごくいい果実がなったかもしれないのに、「小さい実しかなりませんでした。売れませんでした、才能ないね」って。「いやそれは育て方が悪いだろ!」 みたいなことだってやっぱりあるわけですよ。
鈴木:私以外でも今、めちゃめちゃそれは起きている気がする。

手島:これは、ビジネスの話をする時に結構勘違いされているんだけれども、「実は損してないか?」って話なんですよね。本当はもっとお金になった人なのに、そうやって潰している人がたとえば10組中8組くらいいて、たまに1、2組当たる利益で回収しているけど、残りの8組だって実はお金になったかもしれないと思いますね。音楽業界を30年間くらい見てきて。
スタッフサイドにも薄々そう思っている人もいると思うんですよ。だけど、いろんな会社のしがらみとか、体制とかで、上から言われちゃうと……みたいな。
鈴木:扱うものがなまものだからケースバイケースなのになって、すごく思うけど、成功例のテンプレートをやっぱりはめられるよね。
手島:なまじ1、2例大成功したのが出てくると、「あの人を見習え」になってしまうんですよね。
鈴木:で、後追いをやってみて、この人には合いませんでした、無理でしたってね。
手島:基本的にはみんな一人ひとり違うんですよね。だから、僕もアーティストのメンタルヘルスについて本を書いていますが、自分で言うのもなんだけれども、あれは一般論としてこうだと書いているわけで、例えば相談に来た方が本の事例とは全然違うということだってやっぱりあるわけですね。基本はこうだけれど、文字通り受けとめて全てに当てはめる必要はないんです。とにかく「一人ひとり違うから一人ひとりを見る」ということだと思います。