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『エディントンへようこそ』を映画音楽とともに読解。アメリカーナの亡霊、心理的恐怖

2026.1.6

#MOVIE

私たちはこの混乱と不安、崩壊していく秩序の当事者であるということ

こうした2人の作家が共同でサウンドトラックを手がけていることは、アリ・アスター監督が『エディントンへようこそ』で現実世界の様相を強く反映させたことと無縁ではないでしょう。ダニエル・ペンバートン、ボビー・クーリックという2つの作家性が織りなす二重構造は、巨大なアメリカ社会とエディントンという小さな町という本作の対比構造とも重なります。

ジョーの妻ルイーズと義母ドーンはともに陰謀論に傾倒している / © 2025 Joe Cross For Mayor Rights LLC. All Rights Reserved.

先行きの見えない不安、SNSによってもたらされる秩序の崩壊、ロックダウン下の小さな町に漂う不穏な静けさ、そして破綻の予感——映画内に大きく横たわり、サウンドトラックとともに登場人物たちを覆い尽くすこうした閉塞感は、現代のアメリカ社会の歪んだ様相や心理そのもの。それは先に引用した「僕らが暮らす国のように感じられる映画を作りたかったんだ」という監督の言葉によって裏付けられます。

そして「ようこそ」とエディントンに招き入れられた私たちは、閉塞する現実世界の縮図を目の当たりにし、ペンバートンのアメリカーナの亡霊のごとき映画音楽的サウンドと、クーリックの「暗い音響」が醸成する心理的恐怖に巻き込まれてしまう……。

観客を当事者であるかのように没入させる映画体験において、やはり本作でも音楽は大きな役割を担っていると思います。

映画『エディントンへようこそ』サウンドトラック収録曲(作曲:ダニエル・ペンバートン、ボビー・クーリック)

この映画のもっとも恐ろしいところは、その恐怖が現在進行形のものであることです。アリ・アスターは、本作について以下のように語っています。

この映画を無理やりに要約するとしたら、小さな町にデータセンターが建設される物語なんだ。巨大テクノロジー企業と資本家がすべてを掌握し、人々は政治的な争いに魅了される。新型コロナウィルスの流行以降、さらに悪化し、崩壊寸前の社会システムの中で僕らは生きざるを得ない状況だ。その上、僕らはシステムを変えるための手段を奪われている。

データと情報の管理は権力者の特権で、人々が疑念や怒りを権力者ではなく隣人に向けるなら、彼らの特権はさらに強化されるだろう。僕たちが権力の暴走に対抗する力になることができる、という民主主義の考え方は、パンデミックによって完全に終わってしまったのかもしれない。

『エディントンへようこそ』プレス資料より

インターネットによる静かな支配が進む日常、SNSが引き金となって巻き起こる軋轢や暴力の連鎖、スマートフォン上の出来事と感情、倫理観の処理速度の間に生まれる誤差、そして次第に現実世界が呑み込まれていく不条理……本作からはそうした状況を傍観者のように扱ったり、冷笑する態度は感じられません。

おそらくアリ・アスター自身が当事者としてこうした混乱に身を置き、皮肉を交えながらも、問題提起を試みたのが『エディントンへようこそ』という映画なのでしょう。当事者的な視点、能動的に観客に働きかけようとする意図は、過去のアリ・アスター作品には希薄で、そこに現実世界の置かれた状況の深刻さを読み取ってしまいます。あのアリ・アスターが? と当惑してしまうのです。

本作で何らかの答えや解決の糸口が示されることはなく、それゆえに陰惨で、不快感すらあるかもしれません。ですが、だからこそリアリティーがあるように思うのです。

最後に主演のホアキン・フェニックスの言葉を引用します。

観客がこの映画を観て、今の世界を理解してくれることを願っている。

『エディントンへようこそ』プレス資料より

『エディントンへようこそ』

2025年12月12日(金)より全国公開中

監督・脚本:アリ・アスター
出演:ホアキン・フェニックス、ペドロ・パスカル、エマ・ストーン、オースティン・バトラー、ルーク・グライムス、ディードル・オコンネル、マイケル・ウォード
配給:ハピネットファントム・スタジオ

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