高校進学を機に上京し、国際的な舞台からインディペンデントな気鋭の作家の作品まで、幅広い場所と表現方法で活躍する表現者、アオイヤマダ。言葉を使って表現することが得意ではなかったという幼少期の頃に出会ったダンスという身体表現を軸に、他でもない自分自身の表現を探求し続ける彼女の姿は、必ずしもその魅力や経験を言葉では表しきれない「アート」とも響き合うのではないでしょうか。
『アートウィーク東京(AWT)』の中で彼女が気になったという作品も、自ら歩んできた道と重なるような「未知の体験に出会える」もの。毎朝作るという自作のおべんとうをプリントした衣装に身を包み、現代アートギャラリーが集結する天王洲・TERRADA ART COMPLEX内のKOSAKU KANECHIKAに現れたアオイヤマダが語ってくれたのは、肩肘張らずに一人の「生身の人間」として作品や作家に向き合う、アートの楽しみ方でした。
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【アートとの出会い】とにかく色が好き。カラフルで楽しい時間が今日まで続いている
―アオイさんがアートに惹かれるようになったきっかけを教えてください。
アオイヤマダ:子供の頃はアートに触れる機会は少なかったですが、手の届くところに絵具やクレヨンなどの画材がたくさんありました。恥ずかしがり屋だったこともあり、人と話すよりも、一人で黙々と絵を描いたり、色を使って遊んだりするほうが好きでした。
水に絵具を溶かして色をつけてみたり、その色水(いろみず)の中に石を落としてみたり……。とにかく色が好きなんです。今も、自分が作った色とりどりのおべんとうを洋服にして毎日のように着ていますし、子供の頃からのカラフルで楽しい時間が、今日まで続いているという感覚です。

ダンサー / 俳優。東京2020オリンピック閉会式ソロパフォーマンス、ダムタイプ『2020』パフォーマンス、Netflixドラマ『First Love初恋』やヴィム・ヴェンダース 作品『PERFECT DAYS』に俳優としての出演や、宇多田ヒカル「何色でもない花」のMVを振付。NHK『ドキュメント72時間』のナレーションなどに携わるなど、身体と声で活動を広げている。生き様パフォーマンス集団『東京QQQ』としても活動中。日々、夫にお弁当を作っている。
KOSAKU KANECHIKAのグループ展『GROUP SHOW: 4 ARTISTS』にて(会期:2024年8月31日〜9月28日)。自作のおべんとうをプリントした服に身を包んで。
―今日一緒に観たKOSAKU KANECHIKA(天王洲)のグループ展も、絵画や刺繍など、色を使った素敵な作品が多かったですね。印象に残った作品はありますか?
アオイヤマダ:沖潤子さんの作品でしょうか。一般的によく知られるような刺繍とはまた違う、布に針目が重ねられた緻密な作品でした。作品の素材や技術が気になる人も多いと思いますが、作品の技術面よりも、作品の背景にどのような物語があるのかを想像しながら観ました。その想像や解釈が正解かどうかは気にせず、自由に想像を膨らませて自分の体験に落とし込み、自分事のように考えながら、普段からアートを楽しんでいます。
沖さんの作品は、観た瞬間からすごく温かな気持ちになり、「この温かさはどこからやってくるんだろう?」と思いながらじっくり観させていただきました。お母さんが残したものを使った作品も展開されていると知り、沖さんの一縫い一縫いに込められた愛の力と、時間の積み重なりを感じました。

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潜在意識を掘り起こすアートからインスピレーションを得て作品に
―アオイさんはビデオアートへの出演やアートイベントなどでのパフォーマンスが続き、年々現代美術との関わりが増えていると思います。アートから受け取ったインスピレーションを、どのようにパフォーマンスに落とし込んでいますか?
アオイヤマダ:最近は、自分が普段生活していて無意識のうちに感じてきたものを、もう一度呼び起こしてパフォーマンスに落とし込むという作業をしています。意識の外から内に戻す感覚です。沖さんの作品も、心の中のすごく深いところにある時間や風景を掘り起こした作品なのかもしれません。潜在意識にあるものたちを認識する作業にはつらさも伴いますが、表現者として大切なプロセスだと思っています。


―心の中に深く潜るんですね。
アオイヤマダ:加えて、もちろん視覚や聴覚を研ぎ澄ませることも心がけています。今回の展覧会で観た画家の青木豊さんは、絵画制作において⼀貫して光にアプローチしていると聞きました。ギャラリーの真っ白な壁の中に、青木さんのメタリックで物質的な作品がかけられることで、一気に光に対して意識のスイッチが押された感じがしました。

