現在公開中の映画『ファーストボイス ー私たちの逆転裁判ー』より、ファーストサマーウイカと当時の裁判原告・晴野まゆみによる特別対談が解禁された。
同作は、日本初の「ハラスメント裁判」に着想を得た物語。日本が好景気に沸いた1989年には、女性は結婚までの「腰掛け」として働く存在だと思われていた時代に、誰も戦ったことのなかった裁判に挑む型破りな弁護士たちの姿が描かれている。主人公のお人好しな弁護士・朝日道子を綾瀬はるかが演じるほか、松本穂香らが出演。ウイカは職場で理不尽な嫌がらせを受けて会社と上司を提訴する女性・上原恵を演じている。
今回公開されたのは、ウイカと物語の着想元となった「福岡セクシュアル・ハラスメント裁判」の原告である晴野による特別対談。映画撮影前に初対面した2人が、社会における概念の変化や、戦いの裏にあった「味方」との葛藤などを語り合っている。

対談は2人が初対面した際の振り返りから幕が開けた。
晴野:『光る君へ』(ウイカが出演した大河ドラマ)などを観ていたので、ファーストサマーウイカさんが今回の恵という役を演じられると聞いてびっくりしました。
ウイカ:ちょうど私が生まれたのが1990年なんですけど、当時の記録でも晴野さんが活動されているものが出てくるので、「あ、この時代なのか」と時代をまたぐような形になっているなと思いました。
晴野:1990年だともう裁判が始まって、第2回、第3回公判などをやっていた頃です。自分の中でも一番「やるぞ!」と、とにかくガムシャラになっていた時期だったかと思います。
次の話題は、社会におけるハラスメントという概念の変化について。「セクハラ」という言葉が生まれた当時の様子から現代の社会にまで話が展開された。
ウイカ:どの企業でもパワハラ・セクハラ・モラハラといったハラスメントの意識がもう当たり前になっていますが、実はまだ当時からたったの40年ぐらいしか経っていない。1989年に「セクハラ」が流行語大賞になったという事実すらちょっと不思議で、その頃にはその概念すらなかったのかと思いました。同時に、それだけの短期間で変わるものなんだなって、希望もありますよね。今変えていこうとしていることも、この先ちゃんと土壌になっていくのかなと。でも、1989年以前は、そういった被害がほぼ世に上がってきていなかったということですから、そう思うと革命だなと思います。
晴野:当時は「セクシュアル・ハラスメント」という言葉自体、本当に知る人ぞ知る言葉でした。大学を卒業して社会に出ると、女性だから体を触られるということは、「ご挨拶」のように当たり前にありました。お酒や望まないことを強要されたり、いやらしい視線で見られたりしても、言葉にして伝えることもできない。「大人の女なんだからそれくらいは我慢しなきゃ。そうやって世の中に慣れていくのよ」と言われるのが当たり前。でも、やっぱりおかしいよねと。
ウイカ:今はそこがさらに成熟して、女性が男性にされて嫌なことは、同じく女性も男性にするべきではない、という意識になってきている。女性側も男性に触れるときにはもちろん許可が必要で、不快なことをしてはいけないし、「男のくせに」「女のくせに」みたいな言葉も注意が必要。性に対する関わり方が「双方向」なんだという思考がちゃんと回るようになりましたよね。これまでも痴漢や暴行といった物理的なハラスメントはダメだという理解はありましたが、「え、まだ結婚しないの?」といったようなやんわりとした言葉によるハラスメントも、ここ10年ぐらいで色濃く線引きされた。みんなが意識に対する「関所」みたいなものを持っていて、「これ言って大丈夫かな?」って1回立ち返れるようになったんだと思います。
対して晴野は、「ただ、都市部と地方での温度差や、『社会通念上やってはいけません』という理由で抑えているだけで、中身の意識改革が進んでいない部分もある」と指摘。それを受けたウイカも頷き、現代にも残る課題を語っている。
ウイカ:「これをやったら、言ったら怒られる」という仕組みとしては理解しているけど、根本的になんでダメなのかわかっていないという、乖離が起こっている場合もありますよね。小さなコミュニティの中だと我慢せざるを得ないとか、モラハラとセクハラが入り混じる環境もまだまだあるんだろうなと思いますね。
晴野:この裁判をするときに、マスメディアも含めて周りから「セクシュアル・ハラスメントは女性が被害者だ」「男女の対立構造じゃないか」ととても言われたんです。でも、私自身は男女の対立構造を築こうと思ったのではなく、むしろ「今まで女性たちが我慢していたことはこれなんです。共に社会で一緒に働いていく仲間だから、お互いに嫌なことはやめましょう」ということを理解してほしかった。だから例えば女性の上司が男性の部下にそういうことをしても、それは「逆ハラ」ではなく「セクシュアル・ハラスメント」なんです。当時メディアで男性から女性への場合のみを「セクシュアル・ハラスメント」と伝えているのを見ると、私としては正しく理解されていないんだなととてもモヤモヤしました。でも今、そういうことがみなさんの間にも浸透してきているので、時間はかかってはいるけれど、成熟してきたなと感じています。

さらに、テーマは「声を上げることの過酷さ」や「味方との葛藤」という深い内容へ進んで行く。当時の資料などを読んだというウイカが、孤独な戦いに思いを馳せる。
ウイカ:暗闇のなか手探りで一歩一歩進むような感覚のときに、同性からまだ理解に達していない言葉があったり、もちろん矛先を向けられることもあったと思いますが、どれにも当てはまらない「その他大勢」、いわゆる「サイレントマジョリティ」の理解がほぼない状態での戦いというのは本当に恐ろしいし、心が折れるだろうなと思いました。ちょっと想像を絶する感覚でした。
晴野:裁判すると決めたときも、「本当にできるの? 大丈夫?」と心配してくださる方もいれば、「裁判やるなんてちょっとおかしいんじゃない?」という受け止め方をする方も勿論いました。私は声を上げたけれど、葛藤や心の傷、性格によって声を上げられない人もいる。だから、裁判をやったから正しいとか、勇気があるとかっていうのは決めつけてほしくないなと思います。
ウイカ:今、あの当時を思い返して「ああすれば良かった」「今の私ならこうするな」と思うことはありますか?
晴野:「原告・A子」として匿名で裁判を行ったことは結果論としては正解だったと思うのと同時に、自分の中に生まれてしまう乖離を、支援してくれている人たちにもっとストレートに言うべきだったなと思っています。「晴野まゆみ」という自分と「原告・A子」という自分がいて「私は一体誰なんだろう」と葛藤が生じても、「みんな一生懸命やってくれているんだからわがまま言っちゃいけない」と自分を抑え込んでどんどん溜め込んでいってしまったんです。今の私としては「A子としてはこう振る舞わなきゃいけないけれども、私・晴野まゆみは本当はこうしたい」という想いを、小出しでもいいからぶつけておけば、もうちょっと楽だったかも。
ウイカ:今回台本や記録を読む中で、戦う場所が複数あると感じました。会社や加害者側だけでなく、ホームであるはずの「支援者の会」の中にも軋轢や葛藤が同じくらいある。同じような境遇の方がサポートしてくださる環境でも、100%の味方であるわけではないというか、個々の交わり切らない部分って絶対あるんだなと思いました。敵にはファイティングポーズを取ればいいけど、味方には取れないし、スクラムを組まなきゃいけないのに肩を組む力が弱まってしまうというか。「本当にこの人と組んでいいんだろうか」「自分が悪なのではないか」といった無限ループの葛藤が始まりそうで……個人的にはそこが精神的に一番しんどかったのではないかと思いました。A子と私という自己との乖離も表現できたらいいなと、本を読みながら感じていました。

終盤には、晴野から恵を演じるウイカへ向けてエールが送られた。また、ウイカも同作がもたらす意義を力強く語り、対談を締め括った。
晴野:この役を演じていただけることが本当にとても嬉しいんです。今日お話しできて、ウイカさんの気持ちは私と近いと感じました。だけど、少し複雑な部分もある役だと思うので、演じられる上でどういう風に表現しようかと悩まれることもあるかと思うのですが、ウイカさんが恵をどう演じられるのか、そして映画の完成がとても楽しみです。頑張ってください。
ウイカ:私も声の大きいタイプの人間ではありますけど、もし自分がそういう状況になった場合、果たして同じ大きさで声を上げられるかはわからない。恨みや怒り、「泣き寝入りしてたまるか」という感情があっても、身内に疑心暗鬼になったり信じていいか不安があったりする中では、簡単には上手くいかない。その葛藤はすごく理解ができるので、そういった部分をより落とし込みたいです。
私が生まれた当時の話ですが、今だからこそ当時を振り返って「なぜ今はこういう表現(言動)ができなくなったんだろう」と考えることに意味があると思っています。コンプライアンスが厳しく問われる現代ですが、「なんでコンプラが生まれたんだ?」と突き詰めると、そこには「傷つく人がいるから」という答えがある。そうした過去の出来事は今封じられた状態にありますが、だからといって見えないように封じ続けた結果、また誰かが泣き寝入りしなきゃいけないんだったら、あえてその“封じられた箱”をもう一度開けて「過去にこういうことがあったんだよ。だからダメなんだよ」と提示できる作品でありたいです。これからの人たちの手引きや力になるような映画になったらいいなと思っています。
「100%負ける」といわれた裁判に挑んだ晴野と、その思いを受け継ぎ役に落とし込んだウイカ。今回の対談は、社会を変えたファーストボイス(最初の声)の重みと、現代を生きるすべての人へのメッセージが込められた対話となった。
映画『ファーストボイス ー私たちの逆転裁判ー』

2026年10月2日(金)全国ロードショー
◆出演:綾瀬はるか
ファーストサマーウイカ、松本穂香
峯村リエ、山田真歩、工藤阿須加、水川かたまり(空気階段) / 鈴鹿央士、迫田孝也、酒向 芳
木村多江、筒井道隆
◆監督:前田 哲
◆脚本:橋本裕志
◆音楽:富貴晴美
◆製作:「ファーストボイス」製作委員会
◆配給:松竹/ワーナー・ブラザース映画
◆主題歌:ちゃんみな「History」 NO LABEL MUSIC / Sony Music Labels Inc.
<ストーリー>
ディスコでミラーボールが煌めき、日本が好景気に沸いた1989年――。寝ぐせ頭で法廷に駆け込む日々を送り、お金にならない案件ばかりを受けてしまうお人好しの弁護士・朝日道子(綾瀬はるか)。そんな彼女のもとに、職場で理不尽な嫌がらせを受け、大好きな仕事をも奪われたとして、会社と上司を相手に提訴をしたいという女性・恵(ファーストサマーウイカ)が訪れる。しかし、それは誰も戦ったことのない前例なき「ハラスメント」を巡る裁判。新人弁護士の栞(松本穂香)は「勝ち目がない」と反対するが、朝日は「この裁判は必ず未来に繋がる」と立ち上がる。彼女たちの前に立ちはだかるのは、“常識”という巨大な壁。それでも踏み出した勇気ある一歩と最初の一声“ファーストボイス”が、日本社会を揺り動かしていくー!
©2026『ファーストボイス』製作委員会
晴野まゆみ『日本初セクシュアル・ハラスメント裁判 元原告A子からあなたへ』
発売日:10月26日
版元:集英社刊
価格:1,870円(税込)