村上春樹の小説『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』が、主演・藤原竜也、演出 / 振付フィリップ・ドゥクフレ(Philippe Decouflé)で2026年1月に舞台化される。
原作は、1985年に出版された村上の4作目の長編小説。高い壁に囲まれた静かな街にやって来た「僕」が「夢読み」として働きながら街の秘密に接近していく「世界の終り」と、計算士の「私」が謎の博士による依頼を受けたことから展開する都会的な冒険活劇「ハードボイルド・ワンダーランド」という2つの物語が同時進行で描かれ、互いに呼応し絡み合いながら、思いもよらない結末へと進んでいく。著者初の書き下ろし長編小説であり、第21回谷崎潤一郎賞を受賞した同作は、発売から40年を経た今もなお国内外で愛され続けている。
演出 / 振付を務めるフィリップ・ドゥクフレは、フランスを代表するダンサー / 振付家 / 演出家。1992年には、31歳でアルベールビル冬季オリンピックの開閉会式を演出した。ドゥクフレと、今回初の村上春樹作品に挑む藤原からのコメントも公開されている。
私にとって日本は、心地よく過ごせる大好きな国です。そんな日本で、ホリプロからお声がけいただき、 同社との3作目となる作品に取り組めることを、たいへん嬉しく思っています。
フィリップ・ドゥクフレ(演出・振付)
そして今回、世界的に高く評価され、日本を代表する作家村上春樹氏の小説『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』を舞台化する機会をいただき、心から光栄に思っています。物語性にあふれ、独自の世界観を持つ村上氏の小説は、読む者の想像力を大きくかき立てます。
異なる世界を行き来しながら展開する想像力に満ちたこの小説を舞台化するという大きな挑戦に、私は圧倒されました。最初に物語を読んだときは、「これを舞台化するなんて到底無理だ」とすら感じたほどです。もちろん、ジャンルを横断することが好きな私は、そこに大きな魅力を感じてもいましたが。そんな〝不可能を可能にする″このプロジェクトに取り組めることに、今、胸が高鳴っています。――演劇であり、ダンスであり、音楽であり、視覚芸術であり、そしてどの枠にも収まらないような舞台……。
実験的な芝居、歌のないミュージカル、フィルムを使わないファンタジー映画。小説に登場する南のたまりや壁が命を持ち、光の中でユニコーンが踊るシュールなバレエ。影が持ち主から切り離され、「やみくろ」が暗闇の中でうごめく世界。この多層的な小説は、私たちの想像力の翼を大きく広げてくれます。この世界に、皆で喜びとともに没入できることを、心から願っています。
同じ本を読んでも、読者それぞれが異なるイメージを抱くことがあります。文学の魅力のひとつは、読む人の関心や文化に応じて、誰もが自分なりの入り口からその世界に入っていけること。私は、映像、動き、音を通して表現するアーティストです。この壮大なプロジェクトを、私自身の感性と文化を通じて導いていきたいと思っています。
ホリプロが結成してくださったチームを、私は心から誇りに思っています。各分野で最もこのクリエイションにふさわしい、才能あふれる人材が選ばれました。俳優、ダンサー、プランナー、制作チーム——作品づくりに必要なメンバーは、すべて揃いました。あとは、この巨大なパズルのピースをひとつひとつ組み合わせ、最高の舞台を一緒に創り上げるだけです。
さあ、モーター、アクション!
10年前、蜷川さんとの2度目のハムレットでロンドンの舞台を踏んだあと、同じ劇場で連続上演された蜷川さん演出の「海辺のカフカ」を客席から観たのが村上作品との出会いでした。自分自身、村上ワールドに引き込まれたのはもちろんですが、世界中から集まった満席のお客様が時には声をあげて笑いながら、舞台に興奮していた様子を今も覚えています。
藤原竜也
今回、世界的作家である村上春樹さんの初期の大傑作の舞台化に参加させていただけることは、大変光栄です。演出家のフィリップ・ドゥクフレさんのダンスカンパニーの公演がソウルで上演されると聞き、弾丸で観に行かせていただきました。そのパフォーマンスは独創性溢れるもので、観客を喜ばせるアイデアの連続でした。終演後フィリップさんにお目にかかり、そのお人柄にも惹かれました。自分はダンサーではありませんが、もし稽古場でフィリップさんからダンスを求められたら、「お手柔らかに」とフランス語でお答えします。
今回の作品、俳優人生のターニングポイントになるかもしれません。驚くような舞台にしますので、ぜひ皆様にご覧いただきたいです。
舞台『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』

◆東京公演
2026年1月開幕
会場:東京芸術劇場プレイハウス
主催:ホリプロ
共催:東京芸術劇場(公益財団法人東京都歴史文化財団)
協力:新潮社・村上春樹事務所
企画制作:ホリプロ
※ツアー公演(宮城・愛知・兵庫・福岡)あり
<スタッフ・キャスト>
原作 村上春樹
演出・振付 フィリップ・ドゥクフレ
脚本 高橋亜子
キャスト 藤原竜也 ほか
<あらすじ>
“世界の終り”と“ハードボイルド・ワンダーランド”という二つの世界が同時進行で描かれる。
二つの物語が織りなす、思いもよらない結末とは――。
・世界の終り
周囲が高い壁に囲まれた街に“僕”はやって来た。街の人々は一見平穏な日々を過ごしている。僕は街に入る際に影を切り離され、いずれ“影”が死ぬと同時に心を失うと知らされる。僕は古い図書館で美しい少女に助けられながら一角獣の頭骨に収められた夢を読む仕事を与えられていたが、“影”から街の地図を作成するよう頼まれる。影は街から脱出する方法を模索していたのだ。僕は地図を完成させるために、図書館の彼女や大佐、発電所の青年から話を聞き、街の正体を探るのだった。
・ハードボイルド・ワンダーランド
“組織”に雇われる計算士である“私”は、依頼された情報を暗号化する「シャフリング」という技術を使いこなす。ある日私は謎の博士に呼び出され、博士の孫娘の案内で地下にある彼の秘密の研究所に向かい、「シャフリング」を依頼される。博士に渡された贈り物を開けると、そこには一角獣の頭骨が入っていた。私は頭骨のことを調べに行った図書館で、心魅かれる女性司書と出会う。だが博士は研究のために、私の意識の核に思考回路を埋め込んでいた。世界が終るまでの残された時間が迫るなか、私は地下世界から脱出し、どこへ向かうのか。