2025年本屋大賞の結果が4月9日(水)に発表され、阿部暁子の『カフネ』が大賞を受賞した。
『本屋大賞』は、新刊書の書店で働く書店員のみの投票によって選ばれる文学賞。書店員自身が1年間に読んで「面白かった」「お客様にも薦めたい」「自分の店で売りたい」と思ったかどうかが投票基準となっている。今回ノミネートされていた10作品は、488書店652人からの投票によって選出。ノミネート作品をすべて読んだ上でベスト3を推薦理由とともに投票する二次投票には336書店441人が参加した。
『カフネ』は弟を亡くした薫子と、弟の元恋人・せつなが家事代行を通して人々の心を救い、やがて互いにかけがえのない存在になっていく過程を描いた物語。溺愛していた弟が急死して悲嘆にくれていた薫子が、弟の遺言書からせつなに会ったことから物語が展開。料理人・せつながふるまったあたたかな食事をきっかけに、せつなが務める家事代行サービス「カフネ」の活動を手伝うことになり、出会う人びとの暮らしを整えていく内容となっている。なお、タイトルの「カフネ」はポルトガル語で「愛しい人の髪を撫でる仕草。頭を撫でて眠りにつかせる穏やかな動作」のことを指し、様々な言葉にならない関係性を描いた作品の象徴として用いられている。
講談社の特設サイトでは、漫画家・志真てら子によるあらすじ漫画や作品に登場するレシピ、試し読みなどが公開されている。



作品はこれまでに「第8回未来屋小説大賞」や「第1回あの本、読みました?大賞」を受賞しており、現在11刷32万部を突破。2024年末からは8度の重版を記録しており、大きな反響を呼んでいる。なお、阿部は今回が本屋大賞初ノミネート。岩手出身の作家が本屋大賞を受賞するのも初めてとなった。
第2位には早見和真の『アルプス席の母』、第3位には野崎まどの『小説』が選出。同時に発表された翻訳小説部門では、レベッカ・ヤロス(Rebecca Yarros)著で原島文世が訳した『フォ-ス・ウィング―第四騎竜団の戦姫―』が第1位を獲得。ジャンルを問わず、時代を超えて残る本や今読み返しても面白いと思う本を選ぶ発掘部門ではクラフト・エヴィング商會の『ないもの、あります』が「超発掘本!」に選出されている。
2025年本屋大賞 結果
大賞(581.5点) 『カフネ』 阿部暁子/講談社
2位(353点) 『アルプス席の母』 早見和真/小学館
3位(345点) 『小説』 野崎まど/講談社
4位(323点) 『禁忌の子』 山口未桜/東京創元社
5位(234.5点) 『人魚が逃げた』 青山美智子/PHP研究所
6位(228点) 『spring』 恩田陸/筑摩書房
7位(223点) 『恋とか愛とかやさしさなら』 一穂ミチ/小学館
8位(219点) 『生殖記』 朝井リョウ/小学館
9位(196.5点) 『死んだ山田と教室』 金子玲介/講談社
10位(163点) 『成瀬は信じた道をいく』 宮島未奈/新潮社
翻訳小説部門
1位 『フォース・ウィング ―第四騎竜団の戦姫―』 レベッカ・ヤロス/原島文世 訳/早川書房
2位 『白薔薇殺人事件』 クリスティン・ペリン/上條ひろみ 訳/東京創元社
2位 『別れを告げない』 ハン・ガン/斎藤真理子 訳/白水社
発掘部門
超発掘本 『ないもの、あります』 クラフト・エヴィング商會/ちくま文庫