3月8日(金)より全国公開されている映画『i ai』(読み:アイアイ)の舞台挨拶が、公開翌日の3月9日(土)に開催された。
オルタナティブロックバンド・GEZANのフロントマンであるマヒトゥ・ザ・ピーポーが初監督を務めた同作。マヒト監督の実体験をもとに、主人公のバンドマン・コウと、コウが憧れるヒー兄、そして仲間たちが音楽と共に過ごした日々や彼らの切実な時間が、兵庫・明石を舞台に描かれている。舞台挨拶にはコウ役の富田健太郎、ヒー兄役の森山未來、さとうほなみ、小泉今日子、そしてマヒト監督が登壇した。
2021年の夏に撮影し、ようやく迎えた劇場公開の感想を訊かれたマヒト監督は、「3年間、自分たちの中で大事にしてきたものは、羽ばたいていく。親鳥のような、いってらっしゃいっていう気持ちで、本当に嬉しいです」と笑顔を見せた。3500人の大規模オーディションから抜擢され、映画初主演を務めた富田は、満員の客席を見て、「この景色を忘れないと思います。『i ai』に出逢えたことは宝物です」と喜びを噛み締めた。
マヒト監督は、クラウドファンディングで製作を開始した当初から、「共犯者になってください」と呼びかけていた。「自分ひとりの書いた脚本から始まったものなんですけど、いろんな人の力やエネルギーが重なって、立体的に組み上がっていく過程を撮影中の現場でも見ていました。映画は完結しているんですけど、それがお客さんの前に手渡されて、その人の中の血に溶けてこれから始まっていくんだなとも同時に思っています」と今後の展開に期待をこめた。
マヒト監督の「共犯者」としてこの映画に参加した役者陣。森山は同作への出演理由について、「台本という名前もまだつけてあげられない状態というか、私小説的な、純文学的な状態のものをマヒトから受け取ったときに、こんなにピュアに届けたい言葉がある、伝えたいことがあるということに特化した物の書き方に久しぶりに出会った感覚があって」と振り返る。「まだ脚本にはなっていないけど、これをどうやったら(映画に)できるだろう?というところから始まったんですけど、そのうちに、直筆の赤い手紙をいただいて。でも、そこに何が書いてあったか内容は思い出せないんですよね」と笑いながら明かした。続けて、「地元が神戸なんですけど、この作品が神戸であり明石の作品であるということは、海と空の話でもある。それは血として違う海で撮るというのは僕の中ではなかった」と断言。「やっぱり瀬戸内海特有の色味や霞みというのは、太平洋にも日本海にもない。それを撮れないなら、参加できないと言いました」と撮影地へのこだわりをみせた。
主人公コウや仲間たちが集うライブハウスの店長役として作品に出演した小泉。「私はカメラマンの佐内(正史)さんとも昔から何度もお仕事していて、佐内さんもマヒトくんも独特の自分の言葉を持っていて、写真を撮ったり、音楽を作ったりして表現しているんだけど、そんな2人が組んだときにどんなことが起こるんだろうって。2人のセンスは元々好きなので、これはプラスしかないんじゃないか、すごい良い化学反応が起こるんじゃないだろうかと思い参加しました」と出演理由を説明した。
また、自身の役どころについて「ライブハウスに夢や憧れをもって集う若者たちは今でもたくさんいると思うんですけど、その中で音楽を生業にして生きていけるひとって本当にすごく少ないと思うんですよね。でもそういう人たちが置いていった夢の“墓守”のようなそんな気持ちで演じさせていただいた」と明かした。
「ほないこか」名義でミュージシャンとしても活動し、ヒー兄の恋人・るり姉役を務めたさとうも、ライブハウスへの思い入れを吐露。「私も10年以上バンドをやっていて、売れない時期とかライブハウスでやっていた時もあるし、色々な人が諦めて会社員になったりだとか、もうバンドをやっていなかったりとか、そういう人たちの魂も込めて、ライブハウスにはあるもんだろうな」と、自身の経験を踏まえて感想を述べた。
マヒト監督が紡ぐ詩的な「ことば」と映像美が魅力の同作に対し、小泉は「本当に、30年ぐらいの時間の中で一番好きな日本映画でした」と最大級の言葉で称賛。森山は「この体験、色彩、音。映画館で体験するために作られたもの。この空間設計だからこそ、届く言葉。劇場に足を運んでもらうことに、こんなに意味のある映画はないと思います」と魅力を語った。
最後に観客に向けて、富田が「僕はコウとして生きることができて幸せでしたし、この『i ai』という大きな赤い風船がどこまでも飛んでほしいと思っていますし、僕は心から信じています。この映画を皆さんとどこまでも飛ばしていきたいなと思っています」と思いを語った。
マヒト監督は「『別れ』が真ん中にあるお話だと思うんですけど、『生きる』についての話だと思うんですよね。みんなが当事者の話で、必ず訪れる自分の大切な人だったりとか、自分自身もまたこの世界からいなくなるときがくる。誰ひとり部外者がいないストーリーで、映画が終わったあともずっと続いていくものだと思うんで、これからもよろしくお願いします。これからもというか、これからがよろしくお願いします」と総括し、イベントは幕を閉じた。
なお、映画公開初日の3月8日(金)には、GEZANが手がけたオリジナルサウンドトラックもリリース。公式サイトや公式SNSでは、塩塚モエカ(羊文学)や安藤政信、高良健吾らからのコメントも公開されている。
『i ai』
出演 富田健太郎 さとうほなみ 堀家一希 イワナミユウキ KIEN K-BOMB コムアイ 知久寿焼 大宮イチ 吹越 満 永山瑛太 小泉今日子 森山未來
監督・脚本・音楽 マヒトゥ・ザ・ピーポー
撮影 佐内正史 劇中画 新井英樹
主題歌: GEZAN with Million Wish Collective「Third Summer of Love」(十三月)
プロデューサー 平体雄二 宮田幸太郎 瀬島 翔
美術 佐々木尚 照明 高坂俊秀 録音 島津未来介
編集 栗谷川純 音響効果 柴崎憲治
VFXスーパーバイザー オダイッセイ
衣装 宮本まさ江 衣装(森山未來)伊賀大介 ヘアメイク 濱野由梨乃
助監督 寺田明人 製作担当 谷村 龍 スケーター監修 上野伸平
宣伝 平井万里子
製作プロダクション:スタジオブルー 配給:パルコ
©STUDIO BLUE(2022年/日本/118分/カラー/DCP/5.1ch)
■公式サイト:https://i-ai.jp
■公式Instagram:https://www.instagram.com/i_ai_movie_2024/
ストーリー
舞台は、兵庫の明石。期待も未来もなく、単調な日々を過ごしていた若者・コウ(富田健太郎)の前に、地元で有名なバンドマン・ヒー兄(森山未來)が現れる。強引なヒー兄のペースに巻き込まれ、ヒー兄の弟・キラ(堀家一希)とバンドを組むことになったコウは、初めてできた仲間、バンドという居場所で人生の輝きを取り戻していった。ヤクザに目をつけられても怯まず、メジャーデビュー目前、彼女のるり姉(さとうほなみ)とも幸せそうだったヒー兄。その矢先、コウにとって憧れで圧倒的存在だったヒー兄との突然の別れが訪れる。それから数年後、バンドも放棄してサラリーマンになっていたコウの前に、ヒー兄の幻影が現れて……。