メインコンテンツまでスキップ
NEWS EVENT SPECIAL SERIES

ドラマ『しあわせな結婚』が投げかける、なぜ人は結婚するのか?という問い

2025.8.21

#MOVIE

©テレビ朝日
©テレビ朝日

大河ドラマ『光る君へ』(NHK総合)の脚本家・大石静と『不適切にもほどがある!』主演の阿部サダヲという強力タッグがテレビ朝日のドラマで初めて実現したことでも話題の『しあわせな結婚』(テレビ朝日系)。

映画『夢売るふたり』(2012年)など阿部サダヲとの共演作も多い松たか子や、『光る君へ』での好演が光った段田安則や玉置玲央など、豪華な出演陣を演出するのは、大河ドラマ『青天を衝け』(NHK総合)や連続テレビ小説『ひよっこ』(NHK総合)などの演出を手掛けてきて、本作が初めての民放ドラマ監督となる黒崎博だ。

夫婦の愛を問うマリッジサスペンスでありながら、複雑な背景を抱える家族たちによる人間ドラマも魅力となっている。

テレ朝ドラマ史上初の試みとなる「ドラマ×Podcast」も話題の本作について、毎クール必ず20本以上は視聴するドラマウォッチャー・明日菜子がレビューする。

※本記事にはドラマの内容に関する記述が含まれます。あらかじめご了承下さい。

『光る君へ』大石静×阿部サダヲ×松たか子の豪華布陣

運命的に出会った原田幸太郎(阿部サダヲ)と鈴木ネルラ(松たか子)©テレビ朝日
運命的に出会った原田幸太郎(阿部サダヲ)と鈴木ネルラ(松たか子)©テレビ朝日

話題作がずらりと並んだ2025年夏ドラマの中でも、毎週、視聴者を翻弄しているドラマ『しあわせな結婚』。長年、独身主義を貫いてきた敏腕弁護士が、ある日、運命の恋に落ちて電撃結婚。だが、愛する妻は、とある事件に関わっていた過去があり……という設定からはじまるマリッジサスペンスだ。レジェンド弁護士として注目の事件で次々と無罪を勝ち取ってきた後に、ワイドショーのコメンテーターとしても活躍する主人公・原田幸太郎を阿部サダヲが、その謎めいた妻・ネルラを松たか子が演じる。

西川美和監督による映画『夢売るふたり』(2012年)、松尾スズキ監督による映画『ジヌよさらば~かむろば村へ~』(2015年)、坂元裕二脚本のスペシャルドラマ『スイッチ』(2020年 / テレビ朝日系)など、何度も共演経験がある二人。今年2025年11月には、宮藤官九郎作の舞台『雨の傍聴席、おんなは裸足…』も控えており(ここでも夫婦役)、いま最もクリエイターたちの創作意欲を掻き立てている組み合わせと言っても過言ではないだろう。

今回、脚本を担ったのは、2024年の大河ドラマ『光る君へ』などヒット作を手がけてきた大石静。『光る君へ』から間もない最新作ということもあって、情報解禁の時点から話題を集めた。共演には、年の離れたネルラの弟・レオを板垣李光人、ネルラの叔父・考を岡部たかし、過去の事件を追う刑事・黒川を杉野遥亮が演じている。『光る君へ』からの「転生」組も多く、ネルラの父・寛(かん)を段田安則、亡くなったネルラの元恋人・布勢夕人を玉置玲央、幸太郎の後輩弁護士・今泉を金田哲が演じ、さらに第1話では野呂佳代がゲスト出演するなど、『光る君へ』ファンにとってもたまらない布陣になっている。

テレ朝ドラマ史上初の「ドラマ×Podcast」という試み

Podcastでは阿部と松の他、板垣李光人、杉野遥亮、岡部たかし、段田安則のトークも楽しめる©テレビ朝日
Podcastでは阿部と松の他、板垣李光人、杉野遥亮、岡部たかし、段田安則のトークも楽しめる©テレビ朝日

ドラマ本編に言及する前に触れておきたいのが、テレビ朝日のドラマ史上初の試みとなる本作のPodcast(音声配信番組)だ。主人公を演じる阿部サダヲがホストを務め、出演する豪華キャストたちがドラマについての話をしたり、しなかったりする15分程度のシリーズ番組になっている。

日本におけるドラマ全体を見渡してみても、プロモーションにPodcastを立ち上げる例は珍しいが、普段ドラマを見ない層にも認知を広げることができるのは大きな強み。Podcastという別角度からのアプローチも絶妙で、YouTubeやTVerなど配信サイトにおける番組についての特集と違い、映像を見ずに「ながら聴き」できるのも手軽だ。Podcast特有の親近感もドラマ視聴のモチベーションにつながり、プラスに影響するだろう。Podcast配信に先駆けて行われたファン1000人以上が集まった公開収録イベントの成功も含めて、「ドラマ×Podcast」という形が、今後のドラマプロモーションにおける新たなスタンダードになっていくのかもしれないと感じさせられた。

独身主義を貫いてきた主人公・幸太郎の変化

弁護士なのに、ワイドショーのMCまで務めることとなった幸太郎©テレビ朝日
弁護士なのに、ワイドショーのMCまで務めることとなった幸太郎©テレビ朝日

阿部サダヲ以外のキャストが一切発表されていなかったPodcastの「エピソード0」には、阿部と大石静が登場した。ちなみに阿部が大石作品に出演するのは2020年のドラマ『恋する母たち』(TBS系)以来。ラブストーリーの名手・柴門ふみの漫画を実写化した作品で、阿部はバツ3の落語家・今昔亭丸太郎を好演。すべてを肯定してくれる「スパダリ(スーパーダーリン)」的な役柄で、粋な名言と懐の深さから放送当時は「沼る」視聴者が続出した。

「結婚を四回するくらい結婚が好き」と豪語していた『恋する母たち』の丸太郎に対し、『しあわせな結婚』の幸太郎の恋愛観はきわめて淡白だ。一人っ子で、すでに両親を亡くして天涯孤独の身だったが、その孤独をむしろ好み、50年にわたり頑なに独身主義を貫いてきた幸太郎。同年代の恋人・つばさ(小雪)から結婚を迫られても、共同生活は無理だと突っぱねてきた。

ネルラが関わる事件の捜査は……

ネルラの事件を負い続ける黒川(杉野遥亮)の本当の狙いとは©テレビ朝日
ネルラの事件を負い続ける黒川(杉野遥亮)の本当の狙いとは©テレビ朝日

だが、運命の出会いはある日、突然訪れる。身体に異変を感じ、救急搬送された病院内のエレベーターで出会ったネルラと強烈に惹かれ合い、そのまま結婚へと突き進む。しかし、あまりにも急ぎ足で結ばれたため、細かなすり合わせができておらず、新婚生活を送る中で、続々と彼女の知られざる一面が明るみになってゆく。

たとえば、好きな食べ物がれんこんだったこと、あまりに寝相が悪いこと。現在は美術教師のネルラが、かつて絵画の修復師として働いていたこと。幼い頃に叔父・考と共に行った海での事故で弟の五守を亡くし、その負い目を背負いながら生きていること。そして何よりネルラは、15年前の殺人事件の被害者・布勢夕人の元婚約者・第一発見者であり、容疑者として捜査対象になっていること——。

第5話では、布施に突き飛ばされて気を失ったネルラが、現場で目にした男の足の正体が誰なのかが焦点になった。ネルラは15年もの間、布施との関係が悪かった父・寛が布施を殺してしまったのではないかと疑いつづけていたが、寛には事件当時にアリバイがあったことが判明する。ネルラの記憶の一部は戻ったが、捜査はふたたび振り出しに戻ってしまった。

中年の新婚生活と令和ならではのホームドラマの面白さ

葛藤しながらも鈴木家に少しずつ馴染んでいく幸太郎©テレビ朝日
葛藤しながらも鈴木家に少しずつ馴染んでいく幸太郎©テレビ朝日

事件の真相も気になるところだが、本作の面白さは、50歳の幸太郎と45歳のネルラによる中年の新婚生活や、令和ならではのホームドラマといった側面にもある。仕事ができ、社会的地位もあり、自活能力もある幸太郎が、妻の家に入らざるを得なくなった苦悩や葛藤は切実だ。

そもそも、幸太郎とネルラの新婚生活の拠点は、ネルラの父・寛が購入したマンション。そこには寛に加えて、叔父の孝、弟のレオが住んでおり、週に一度の食事会がある。幸太郎は、舅や小舅ポジションの義理の叔父、そして自分の子どもくらい年齢差のある義理の弟と囲む食卓に、男同士とはいえだいぶ神経をすり減らしている。普段は、出演するテレビ番組における巧みな話術でお茶の間の心を掴む幸太郎が、鈴木家との食卓では会話に困り、気まずい思いをするギャップは、ちょっと面白い。とはいえ、唯一の砦であるはずの妻・ネルラも、何を考えているか分からず、会話の援護射撃をするタイプでもないから、幸太郎の立場はなかなか気の毒なものだ(いうまでもなくこの設定は、「古典的な結婚」の男女を逆転させた構造になっている)。

RECOMMEND

NiEW’S PLAYLIST

編集部がオススメする音楽を随時更新中🆕

時代の機微に反応し、新しい選択肢を提示してくれるアーティストを紹介するプレイリスト「NiEW Best Music」。

有名無名やジャンル、国境を問わず、NiEW編集部がオススメする音楽を随時更新しています。

EVENTS

『シカゴ・ハウス大全』が8月刊行、500枚以上の作品レビューや座談会を収録 👇👇来日公演まとめは「#来日」に👇👇 音楽フェスや芸術祭、映画祭は「#フェス情報」から👇 Wet Legの来日ツアーが2026年2月に決定、2ndアルバムを引っ提げて東名阪