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ネルラが纏い続けてきた不気味さを生み出したもの

思い返せば、ネルラには初登場の頃から、得体の知れない不気味さを感じさせられていた。演じる松たか子は、掴みどころのない中年女性を演じさせれば、いまや右に出る人はいないだろう。
子どもみたいな奇妙な寝相、何を言い出すかわからない危うさ、ちょっとテンポのずれた会話。そんなところも含めて愛していた幸太郎は、第8話で真実に向き合う覚悟を決め、「万が一君が犯人だったとしてもそれは受け止めるよ」「どんな君でも愛すよ」と、さながらプロポーズのような言葉を送った。社会的立場を背負う幸太郎からの「どんな君でも」は一段と重い。
けれど、その思いはネルラに届かない。レオに自首を促した幸太郎を激しく責め立て、「もう一緒にはいられない」と、ついには離婚を突きつけて来るのだった。
「そうやって15年、みんなで頑張ってきたのよ」「考ちゃんだって、自分の人生をかけて、レオと家族を守るつもりだったのに、それをぶち壊すなんて」「はたから見れば間違ってるかもしれないけど、レオを守り通すことがうちの家族の真実だったの」
記憶を無くしていていたはずのネルラが、なぜ「15年、みんなで頑張ってきた」と言ったのか。まるで事件の真相を知っていて、あえて撹乱させてきたような口ぶりにも聞こえたが、事件に関する記憶を失っていたことは紛れもない事実だろう。
ただ、ひたすらにネルラを突き動かしていたのは、幼い頃に目の前で亡くなった弟・五守の分まで、レオを守らなければならないという義務感ではないか。それは孝も同じで、鈴木家全体に漂う奇妙な空気感ともつながる。そして、それこそが、ネルラが纏う不気味さを生み出したものと言えるだろう。寝相も言動も彼女のちょっと独特な個性にすぎない。私たちがネルラに抱いていた違和感の正体は、その根底にある「歪んだ家族観」にあったのだ。