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2つの「時代」を同時にやるアーティスト
hashimotosan:自分が面白いなって思ったのは、MVが出た順番ですね。『Don’t Tap the Glass』から“Stop Playing With Me”と“Sugar on My Tongue”のビデオが出たと思いきや、その後に『CHROMAKOPIA』にもどって“Darling, I”のビデオが出るっていう。
「『CHROMAKOPIA』エラ」ではあるんだけど、そこに想定外に飛び込んできた『Don’t Tap the Glass』みたいな、そういう構図に見えましたね。当然勝手な自分の憶測ですけど。
―“Darling, I”のMVに「First rapper to have two album eras at once(2つのアルバムの時代を同時にやる初めてのラッパー)」というコメントがついてて、面白かったです。個人的には、こういった多面性こそタイラーの魅力だと思ってて。
アボかど:僕が思うに、ラッパーってそもそも多面的な存在なんですよ。例えばスヌープ・ドッグって怖いギャングスタでありながら陽気なおじさんみたいなイメージじゃないですか。レシピ本出していたりもするし。タイラーもそういった意味ではラッパーなんだなっていうふうに思いますね。全然違うことを同時にやるっていうのは。
hashimotosan:多面性っていうところで彼をとらえると、ミュージシャンでありながらファッションのブランドもやってたりとか。 あとは今度ティモシー・シャラメと一緒に映画にも出るんですよね(※9)。とにかくやりたいことがたくさんある人で、自分のクリエイティブなモードをいろんなとこに持ってる人だと思うんです。
でも全部音楽が軸にあるんですよ、彼は。その音楽をやりたいから、それを表現するためのファッションだったり、ブランド展開だったりをするっていう。だから『CHROMAKOPIA』と『DON’T TAP THE GLASS』っていう相反するモードのアルバムを出したっていうのがすごいタイラーらしいなと思うし、同時にいろんなことをやるのが多分得意な人なのかなと思ってて。やりたいことをやるわがままな部分もありつつ、しっかりビジネスマンでもあるとこがすごく魅力的ですよね。
※9:A24の新作『Marty Supreme(原題)』
アボかど:統一しきれないところっていうのは、やっぱり彼の魅力ですよね。オルタナティブヒップホップ文脈のアーティストではあるんですけど、明らかにメインストリームのヒップホップも大好きな人でもあるっていう。だからといってメインストリームの音楽をやろうとしてもオルタナティブになってしまうみたいな、そういう染まりきれないところも魅力だなと思ってます。
例えばタイラーみたいなタイプのラッパーって、昔だったら、女性ラッパーを客演に呼ぶならラプソディーみたいなタイプを呼んでると思うんですよ。 でもタイラーが呼ぶのってセクシー・レッドとかじゃないですか。 そういうところがタイラーの面白さだなと思いますね。