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キャラクターの生々しい感情を伝える、手書きの線の力

2013年、高畑が78歳の時に公開された『かぐや姫の物語』は彼の最後の長編作品であり、アニメ制作キャリアの集大成と言うべき一作だ。会場には大量の美術ボードや原画が展示されているほか、高畑のインタビュー画像や技法解説の映像を見ることができる。


作中で特に印象的な「かぐや姫の疾走シーン」の作画を丁寧に分析する動画も展示されている。実際の原画と見比べながら鑑賞できるので非常に分かりやすい。一枚一枚が残像を纏っているかのような勢いのあるタッチは、表情が全く見えないにも関わらず、かぐや姫の迸る感情を見事に表現している。なるほど、これが線の持つ力なのか……と深いため息が出た。

疾走シーン中、かぐや姫の顔が写るのはたった2秒ほど。その2秒のために50枚以上の原画が描かれたという。映像でも確認できるので、必見である。どのかぐや姫も微妙に表情が異なり、それぞれが怒りや悲しみのグラデーションを感じさせる。高畑が『太陽の王子 ホルスの大冒険』の頃から変わらず、登場人物の決して単純ではない生々しい感情を描こうとしているのだと伝わってくる展示だ。

出口付近には高畑愛用のストップウォッチが展示されていた。高畑監督、たくさんの感動を、本当にありがとうございました!