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心静かに向き合いたい、『火垂るの墓』エリア

その後、高畑は1985年にスタジオジブリ設立に参加。かねてから日本の風土や庶民生活のリアリティを追求する作品に強い関心があった高畑は、80年代に『じゃりン子チエ』『柳川堀割物語』などの作品を手がけている。本展は高畑の生誕90年とともに、太平洋戦争から80年という節目にあたり開催されていることもあって、それら日本の物語の中でも大きな存在感を放っているのは『火垂るの墓』(1988年)のエリアである。

展示室奥のデジタルスクリーンには、ホタルの光に包まれて笑いあう清太と節子の姿が。じっと眺めていると、ホタルの明滅に併せて、ふたりの上空に爆撃機のシルエットが浮かび上がる。ホタルだと思っていた光のシャワーの中に焼夷弾の火花が混ざっているのだ。心臓がギュッとなる。
ガラスケースの中では、同カットの樋口法子によるハーモニーセル+背景画を見ることができる。ハーモニーセルとは、通常ならセル画は裏面から単色ベタ塗りされるところを、絵画のように多色を塗り重ねて仕上げる着色法、およびその作品のこと。重層的で立体感のある表現が可能だが、「裏面から逆順で」塗り重ねるという超高度な技法のため、セル技法が下火になった現在ではもう操れる人が彼女一人しかいないのではないか……と言われているらしい。

本展開催にあたり、『火垂るの墓』に原画スタッフとして参加していた庵野秀明の描いた「重巡洋艦摩耶」のレイアウト、および樋口法子がそれを着色したハーモニーセルが発見されたという。作中では暗いシーンのためあまりよく見えないのがもどかしいが、今回は隅々と心ゆくまで堪能できるチャンスだ。初公開となるこれらの貴重な資料にも注目である。