異色の青春群像ミステリードラマ『シナントロープ』が話題となっている。
社会現象となったアニメ『オッドタクシー』(テレ東系)の脚本で知られる此元和津也が原作・脚本としてオリジナルストーリーを書き下ろし、MV、CM、TVドラマや映画のディレクションを数多く手掛ける山岸聖太が監督を務める本作は、夜11時台と遅い時間帯のドラマながら、いくつかのドラマランキングでも上位に食い込み、様々なメディアでもレビューが取り上げられている。
水上恒司、山田杏奈、坂東龍汰、影山優佳、望月歩、鳴海唯、萩原護、高橋侃ら実力派の注目俳優が集結し、同じ「街」に生きる人々の空間と時間軸を超えた繋がりを描いた本作について、ドラマ・映画とジャンルを横断して執筆するライター・藤原奈緒がレビューする。
※本記事にはドラマの内容に関する記述が含まれます。あらかじめご了承下さい。
INDEX
何者でもない人々の人生が濃密に錯綜する様を目撃するドラマ

『シナントロープ』(テレ東系)という「まだ何者でもない、私たちの物語」を描いたドラマは、異なる空間にいる、一見関わりのない人々の言葉や、そこで生じた音、彼ら彼女らが関心を持った事象を繋いで、前へ前へと転がるように疾走していく。例えば、電車の車窓から知らない街の日常の光景を覗き込むとしよう。そこで生きている人々がどんな人か、私たちは知りようがない。
本作で視聴者は、そんなどこか知らない街で生きている、知らない人々の人生が、濃密に錯綜する様を目撃する。「まだ何者でもない」のは、街の小さなバーガーショップ「シナントロープ」で働く若者たちだけではない。このドラマは、搾取したりされたりしながらこの街を必死に生きている、「何者か」たちの物語でもあると言えるだろう。
INDEX
水上恒司、山田杏奈ら演者の魅力と「鳥」になぞらえたキャラクター造形の妙

テレビ東京の連続ドラマ枠「ドラマプレミア23」で放送中の『シナントロープ』が面白い。アニメ『オッドタクシー』(テレ東系)の脚本をはじめ、映画『ホウセンカ』(2025年)の脚本、漫画『カミキル-KAMI KILL-』(ヤングジャンプにて連載)の原作など、活躍が多岐にわたる此元和津也のオリジナルストーリーであり、『忘却のサチコ』(テレ東系)、『時をかけるな恋人たち』(カンテレ)の山岸聖太が監督を務める作品だ。
まず特筆すべきは演者の魅力であり、キャラクターの魅力だろう。水上恒司に山田杏奈、板東龍汰という、様々な作品で唯一無二の輝きを幾重にも放ってきた俳優たちは、本作でもすばらしい演技を見せている。そして、朝ドラ『あんぱん』(NHK総合)に出演していた鳴海唯は新たな一面を見せており、「ハシビロコウ」と呼ばれる言葉少なな新人バイト・志沢匠を演じる萩原護も、その絶妙な存在感に目が離せない。挙げればキリがないほど、魅力的な若手俳優が充実しているのだ。
演者自身の魅力に加え、キャラクター造形の妙も光る。志沢の「ハシビロコウ」もそうだが、水町ことみ(山田杏奈)に「音を立てずに対象に近づくことができる“カラフトフクロウ”」に例えられる里見奈々(影山優佳)や、「金髪でギャーギャーうるさい鳥」こと「キバタン」と呼ばれる木場幹太(板東龍汰)など、本作の重要なモチーフである「鳥」に登場人物をなぞらえることで、それぞれの特徴を「愛すべき生態」として印象づける。
さらには裏組織「バーミン」のトップ・折田浩平を演じる染谷将太の佇まいの、ただならぬ不穏さ。基本的には「フルーツをひたすら食べている」だけなのに、その所作の端々には狂気と色気が滲み、その冷徹さは、底知れない恐ろしさを感じさせる。そして、折田の下で働く幼馴染コンビ・リュウちゃんこと龍二(遠藤雄弥)とキュウちゃんこと久太郎(アフロ)のとめどない会話も魅力的だ。他者に向ける暴力の容赦のなさとは裏腹に、常に互いを気遣い、時には久太郎が死生観を滔々と語ったり、彼らの命運を握っている折田への不信感を募らせたかと思ったら、持ち前の忘れっぽさでうっかり何かを忘れていることに気づいたりと、会話の流れがジェットコースターのようで、聴き入らずにいられない。
INDEX
異なる空間や時間を繋ぐ言葉と音

本作の最も興味深い一面は、前述したように、異なる空間、あるいは異なる時間軸にいる、一見、関わりのない人々の言葉や、そこで生じた音、彼ら彼女らが関心を持った事象を繋ぎ合わせながら、物語が前に進んでいくことだ。第1話では、都成剣之介(水上恒司)と木場が話す「外注」と、水町と里見が話す「害虫」が「ガイチュウ」で重ね合わされる。第5話では、田丸哲也(望月歩)と里見がいる喫茶店の店内で、店員が思わず床にお盆を落としたために鳴ったけたたましい音が、次の場面において、塚田竜馬(高橋侃)が出演するライブ会場でのシンバルの音に繋がる。音同士の連なりは、そのまま本作の軽快な疾走感に繋がり、オープニングテーマの柴田聡子&Elle Teresa“ときめき探偵 feat.Le Makeup”、エンディングテーマのS.A.R.“MOON”と見事に調和する。
異なる場面で起こる出来事、あるいは異なる登場人物同士で交わされる会話は、時にシンクロするが、それを唯一知ることができるのは、全体を俯瞰して見つめることができる視聴者のみだという作りも興味深い。例えば、第1話で少しだけ登場した里見と同じマンションに住む「外国人の彼氏っぽい人といる時もある、着物の女性(中村映里子)」の話題は、その後も複数の会話の中に、あるいは実際に登場し、第5話では彼女の「外国人の彼氏」なのだろうアレックス(厚切りジェイソン)が、木場の仕事仲間として登場する。
さらに、第1話において水町と里見がエレベーター内で話している、都成が「エレベーターの『閉める』ボタンと11階のボタンの区別がつかなくて間違える」話は、実際に第3話で、都成が同じエレベーターで2度も11階を押してしまい、行きで折田と鉢合わせ、帰りに折田の元に向かう龍二&久太郎とニアミスするというエピソードで証明される。