6月21日、22日、横浜アリーナにて、2021年より活動休止していたSuchmosが『Suchmos The Blow Your Mind 2025』を開催した。2015年の1st EP『Essense』リリース当時からSuchmosを追いかけてきた編集者・音楽ライターの矢島由佳子が、初日公演をレポートする。
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活動休止中も続いていた、Suchmosという生命体の物語
Suchmosの物語は、ずっと続いていた。
この日のライブを観ながら心に湧いてきたのは、そういった感覚だった。
2015年に1st EP『Essence』でデビューした、Suchmos。2021年2月、活動休止を発表。この日のライブは、2020年1月以来、5年半ぶり。バンドで音を合わせること自体、2020年3月より開催予定だった『Suchmos The Blow Your Mind TOUR 2020』が新型コロナウイルスの感染防止のために中止となり(Zeppなどのライブハウス規模で松任谷由実、Mr.Children、The Birthdayらと2マンを行う、伝説になること間違いなしのツアーだった)、2020年7月に行ったオンラインライブ以来、約5年ぶり。そのあいだには、Suchmosの結成や音楽の誕生に欠かせないメンバー・HSU(Ba)の逝去もあった。そこから再びバンドとして動き出すのは決して楽でも簡単でもなく、「再始動して当然」と信じられるような状況でもなかったことは十分に理解している。それでも、この日感じたのは、Suchmosの物語は2021年以降も止まらずにずっと続いていたのだ、ということだった。

2021年2月に活動休止を発表する際、彼らは「俺たちSuchmosは、修行の時期を迎えるため、バンド活動を一時休止します」と、「修行」が理由であると世の中に伝えていた。
その期間中、TAIKING(Gt)はVaundy、藤井 風、RADWIMPSなどでギターをプレイし、ソロ名義で独自のポップスを表現するソングライティングとボーカルの技量を磨き上げてきた。2022年に行った初ツアーのときから、活動休止期間中に寂しさを感じているファンの想いや世の中からSuchmosに向けられる期待を、TAIKINGが引き受けようとしているように見えた。

TAIHEI(Pf)は、賽、N.S.DANCEMBLEといったバンドを始動し、STUTSやReiなどのサポートも行い、以前からやりたいと語っていた劇伴音楽も実現させた。わかりやすいところで言えば、ライブで披露された新曲“Eye to Eye”などは、TAIHEIが、現代の名トランペッターである佐瀬悠輔(賽)や寺久保伶矢(N.S.DANCEMBLE)とバンドをやる中で得た経験がアレンジに活かされているように思う。

YONCE(Vo)は、表舞台に消極的だった期間を経て、5人組バンド・Hedigan’sで「音楽、バンドは楽しい」といったシンプルな想いを取り戻したと同時に、驚くくらいに歌の深みを獲得し続けている。

Kaiki Ohara(DJ)、OK(Dr)の兄弟も、Suchmosとしては立てなくなったようなローカルな規模感などで、自分たちの音楽の美学と向き合っていた。たとえばこの日演奏された新曲“Marry”は、OKやTAIKINGのコーラス力と、Hedigan’sで“再生”を生み出したあとのYONCEがあってこそ、描くことのできる1曲のように思う。


バンドとは、ひとりの人生や思想が表現されるものではなく、メンバー全員分の人生や思想が絡まり合って、ひとつの生命体として存在するようなところがある。特にSuchmosは、そういったバンドの在り方を信じてきた人たちだ。
2025年6月21日の横浜アリーナで見たものは、YONCE、TAIKING、TAIHEI、OK、Kaiki Ohara、そしてHSUの人生や想いが絡まり合った「Suchmos」というひとつの生命体だった。それぞれの心の動きが、人生が、すべて今日の「Suchmos」として浮かび上がっているように見えた。活動休止期間中、それぞれが「Suchmosの自分である」というアイデンティティを脱ぎ捨てることはなかったのだとも思った。私が感じた「Suchmosの物語は、ずっと続いていた」という感覚は、そういったところから生じたものだった。
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1曲目は“Pacific”、2曲目は未発表曲
バンド名に込めた想い通り、Suchmosはパイオニアとして、国内音楽シーンに新たな道を切り拓いた存在だった。Suchmosが登場する前は、「4つ打ちロックブーム」が巻き起こっていたロックフェスシーンも、AKBグループとジャニーズがランキング上位を埋め尽くしていたポップスシーンも、音楽性が一辺倒になっているような時代だった。そんなときにカウンターとして登場したのが、ロックにジャズ、ヒップホップ、ソウルなどを取り入れたSuchmosだ。その音楽がポップスとして大衆に受け入れられたことが国内音楽シーンに多様性をもたらす大きな要因のひとつとなり、今鳴っている音楽の多くは、彼らが切り拓いた文脈の影響下にあると言える。
そんな存在だからこそ、『Suchmos The Blow Your Mind 2025』には計20万枚のチケット応募が殺到した。古くからのファンはもちろん、活動休止期間中にSuchmosに興味を持った人、または当時まだ小中学生などでライブに行く機会を作れなかった人など、多くの人に「ライブを観たい」と思わせたのだろう。
それほどまでに期待が高まる中での5年ぶりの演奏、一発目に選んだ曲は“Pacific”。Kaiki Ohara、TAIHEI、TAIKINGが正式加入する前から存在する「初期中の初期」の曲であり、<Don’t stop music>という歌詞がある曲。TAIHEIのピアノが美しく響き、OKのドラムがスパーンと気持ちよく耳に届いてから、うしろからまばゆい光が射す中でYONCEが歌い出すと、一気にSuchmosの世界が広がり、身体を揺らす人たちで埋め尽くす会場の景色は波のように見えた。
この瞬間について、のちにYONCEはこう語った――「ステージに立つ瞬間までヘラヘラしていて。ステージに立った瞬間、自分の愚かさに気づきました。こんなに大事な人たちを待たせたり、見る機会がないままに何年もの歳月が経っていたという事実を、1曲目のど頭から痛感した」。
2曲目は、まだ誰も聴いたことがない、7月2日にリリースされるEP『Sunburst』に収録される新曲“Eye to Eye”だった。この時点で、この日のライブは「懐古主義」や「過去を振り返る」などではなく、Suchmosの今を表現するものになることと、ただただ「いい音楽」を自ら楽しみオーディエンスに届けてくれるものになることを予感させた。
“Eye to Eye”を歌うとき、YONCEはスタンドマイクの前で手を叩いていたが、ライブでよくある「みんなで一緒に手を叩いてひとつに」という煽り方でも、「みんなが知らない曲だからわかりやすいガイドを」みたいなことでもなく、本人が音に乗ってごく自然と手を叩いているだけの様子だった。シンプルにかっこいい音楽を届けること。自分たちがまず音楽を楽しむこと。そして一人ひとりの自由を大切にすること。これぞSuchmosだ。そのあとのMCで、実際にYONCEから「楽しむから、ご自由にどうぞ」という言葉もあった。

そのあとは、<アマチュアもプロも変わんないね>と繰り返し、Suchmosの反抗心もTAIKINGのギターヒーローっぷりも炸裂する“DUMBO”。Suchmosというバンドは、ベース、ギター、ピアノ、どれをとっても名リフを生み出すバンドであることも、5年半ぶりのライブで改めて思い知った。そしてOKは寡黙にライブのグルーヴを支え、Kaiki OharaのDJは音像に厚みを作るだけでなく、YONCEの歌に最大限のリスペクトを込めて美味しいところを引き立てるような音を混ぜてくる。
代表曲“STAY TUNE”は4曲目に早々に演奏。そこから緑色のレーザーが飛び交う中で“808”へと繋げて、曲中にYONCEが「Ladies and Gentlemen、紹介します! オンベース、山本連!」とシャウト。HSUの代わりにベースを担ったのは、HSUと同じく洗足学園音楽大学ジャズ科に通い、旧友であった山本連。現在はバンド・LAGHEADSとして活動しながら、ジャズやポップスなど挙げればキリがないほど様々な現場で活躍しているベーシストである。終演後、メンバーの一部と言葉を交わした際、TAIHEIが「(山本連の)DNAは俺らと一緒」「背丈も、タバコを吸ってる姿も、隼太(HSU)なんだ」と笑顔で私に話してくれたことを、ここでみんなにも伝えておきたいと思う。

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「媚びない」「自由」のスタンス
“PINKVIBES”で歌った<First Choice Last Stance>というフレーズは、Suchmosが設立したレーベル「F.C.L.S.」の名前にも掲げるほど、彼らが大切にしているものである。彼らが最初から貫いてきたスタンスのひとつは、「媚びない」ということだ。これはどのバンドマンも大事にしたいと思っているものではあるが、それを貫くことは実に難しい。媚びないこと、無理にみんなと同じになろうとしないこと、自分の感性を大切にすること、自分自身を生きることが、「Suchmos」という生命体の佇まいや生き様になり、それが時代から愛される魅力のひとつにこれまでもなっていた。
そして今のSuchmosは、これまで以上に「媚びない」というスタンスを、自然体のまま体得しているように見えた。より深みのある「自由」を手にしているように映ったのだ。

新曲(しかもEP『Sunburst』に収録予定もなし)“To You”は、全員で悪ガキのようなシャウトから始め、山本のベースがグルーヴする中で「言いたいこと言いにきたよ」と言って、曲の中で「お前生きているかい?」と繰り返し、さらにYONCEが花道でジョーカーのような不敵な笑みを浮かべた。この一連のシーンは、彼らの「媚びない」スタンスを象徴したひとつだ。またこの曲は、YONCEがHedigan’sで発揮しているロックンロールと、TAIHEIが賽やN.S.DANCEMBLEで発揮しているホーンサウンドのミクスチャーのようで、この先Suchmosの音楽性がより自由に広がっていくことも予感させた。
さらにもうひとつ、EP『Sunburst』収録予定がなく披露された新曲が“Latin”。“PINKVIBES”でも、その他の楽曲でも、YONCEは音に身を委ねるように身体を揺らしたりステップを踏んだり、音に導かれるように発声したことが印象的だったが、この曲では<思いつくままに踊り続けろ/思いつくままに歌い続けろ/思いつくままにしゃべり続けろ/思いつくままに動き続けろ>と、暗黒大陸じゃがたらのカバーを込めたフレーズが繰り返された。
そんな曲中の出来事を、書き記しておきたい。暗転したまま、全員が思いつくままに言葉をシャウトしたのだ。
「今日ここに来れなかった仲間に一言言わせてくれ。バカヤロー! ありがとなー!」(OK)
「復活しました、Suchmos! このあとも楽しんでね!」(TAIKING)
「超気持ちいいー!」(山本)
「みなさんお久しぶりです! 小学生の遠足のときみたいに、ワクワクが止まらなくて寝れないっていうアレを久々に経験しました。みなさんの前で楽しくやらせてもらってます! これからもどうぞSuchmosをよろしくお願いします」(TAIHEI)
「みなさんどうもこんばんは。お久しぶりです! 会いたかったー! 隣のみんなとか、今日はすげえ仲良くなれる人たちばっかりだと思うから、どうか思い出を深めて楽しんで帰ってください。ありがとう!」(Kaiki Ohara)
照明を点けないままこれらを語ったのは、あくまでライブの主役は音楽であり、しんみりとさせたくはないといった考えがあったのだろうと想像するが、「彼らなりの<恥じらいの現れ>でもあるな」と思っていたところ、次の曲が“GAGA”であったからクスリと笑ってしまった。
2015年のデビュー以降、急速に階段を駆け上がり世間から注目を集めるあいだ、それぞれが様々な感情を経験していた。活動休止期間中も、大切なメンバーを失って、人生や生き方、音楽について、それぞれがいろんな想いを巡らせたことだろう。その中で、雑念を振り払い、不要なものを削ぎ落とし、本当に大切にしたいことだけを研ぎ澄ましたような、そんな生き方をそれぞれが体得しているように見えた。どうにもならないことはある。なんとかなることも意外とたくさんある。気にしなくていいことはいい。わからないことはわからないままでいい。そういうことを“Overstand”=「Understand」以上に深く理解し、より大きな自由を彼らは手にしているようだった。

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アンコールでHSUについて言及
中盤のMCで、YONCEは一言こう触れた。「今日は夏至ですよね。陽が一番長い日ですよ。普段いないやつもいるんじゃない? そんな気がする」。そのあとに歌った“MINT”の<何も無くても 笑えていればいい/何も無くても 歩けさえすればいい>というフレーズが突き刺さる。生きてさえいれば、それでいい。
そのあとに演奏されたのは、復活後第一弾シングルとして発表された“Whole of Flower”。白と金色の光が混ざり合う中、<Sadness is not gone in my head but/笑おう ただの1日を>というフレーズが、清らかな歌声と祈りを込めたピアノの音色、SuchmosらしいDJのサウンドの中で鳴り響く。哀しみを引き連れながらも温かさのある光、つまりは綺麗事でない希望の形を、今のSuchmosは音楽で浮かび上がらせてくれる。
アンコールではHSUについて触れて、「失ったものは帰ってこない、絶対に。だから、ずっと覚えていたいし、ずっと想っていたいなと思います。一瞬、目を瞑って深呼吸しません?」と呼びかけて、みんなで想いを馳せる時間を作った。「こういうの嫌だっていう人もいるよね、ありがとう」と、みんなの気持ちの自由を尊重する言葉まで添えるところもSuchmosらしいスタンスを貫いた。そして「クソバカな友達に贈ります」と言って演奏したのは、これまたEP『Sunburst』に収録予定のない新曲“Stand By Mirror”。歌詞をすべて聴き取れたわけではないが、これはHSUに<捧ぐ とっておきのナンバー>だろう。YONCEの「クソバカ」やOKの「バカヤロー」には、「なんで逝ってしまったんだよ」という想いが滲み出ているようだった。
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ラストは“Life Easy”
本編最後にチョイスしたのは“YMM”。そしてアンコールを締め括ったのは、知性と技術と優しさでバンドを支えるTAIHEIの、レクイエムのようなピアノソロから始まった“Life Easy”。<信じることが真実さ / 誰のためでもなく / 自分のために生きよう>――その詞の意味も、YONCEの歌も、バンドの演奏も、それぞれが人生を進めてきたからこそ獲得できる豊かさに満ちていた。「新しいこと もう戻れないこと 変わってしまったこと なんでもいいよ 今、今 楽しい嬉しい悲しい 新しい場所へ行きたいんだ 生きていたいんだ」とアドリブを乗せていたことも、ここに書き残しておきたい。
Suchmosは7月2日(水)、EP『Sunburst』をリリースする。作品について話すときも、YONCEは「いろんな感想があると思います。いろんなことを思っていいからね。いいとか悪いとか、好きとか嫌いとか、あなただけのものなので何かに惑わされないでください」と、Suchmosのスタンスらしい言葉を用いていた。
そして、10月から国内と海外の13都市を巡るアジアツアー『Suchmos Asia Tour Sunburst 2025』の開催を発表。Suchmosはこれまで2度、アジアツアーの中止を経験してきた。ついに、ようやく、Suchmosのライブが海外へと届く。
文中にも書いたが、今までで一番「深みのある自由」を手にして歌って演奏しているように見えた。その自由を守りながら、音楽やバンドそのものを楽しめる環境で、「Suchmos」という生命体を生かし続けてほしいと思う。そこからきっと、まだ誰も知らない音楽と、誰しもの中にいるアウトサイダーな自分を肯定してくれる表現を、私たちに届けてくれることだろう。

Suchmos The Blow Your Mind 2025 Set List
https://filtrjapan.lnk.to/theblowyourmind2025
M-01 Pacific
M-02 Eye to Eye (新曲)
M-03 DUMBO
M-04 STAY TUNE
M-05 808
M-06 PINKVIBES
M-07 Burn
M-08 Alright
M-09 MINT
M-10 Whole of Flower (新曲)
M-11 Marry (新曲)
M-12 OVERSTAND
M-13 To You (新曲)
M-14 Latin (新曲)
M-15 GAGA
M-16 VOLT-AGE
M-17 YMM
En-1 6/21(土)Stand By Mirror(新曲) /6/22(日) BOY(新曲)
En-2 Life Easy
【リリース情報】
Suchmos『Sunburst』
発売日:7月2日(水)
価格:2,200円(税込)
収録曲
1.Eye to Eye
2.Marry
3.Whole of Flower
4.BOY
▼Streaming
https://fcls.lnk.to/wof
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