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一方で、マイノリティの認知へポジティブな影響も
ただ、トランスジェンダーの役柄を、『イカゲーム』という世界で最も観られるドラマ作品のなかに登場させたこと自体は、評価すべき部分もある。何故ならメジャー作品であればあるほど、マイノリティのキャラクターが除外されるという現実があるからだ。業界の状況が改善を見せてきたとしても、現実の社会では、まだまだ性的マイノリティへの理解は進まず、とくにトランスジェンダー女性は、更衣室やトイレの使用時における事柄を理由に、排除や差別が激化しているなど、「当事者性」以前に、危機的なバックラッシュに遭っているのが現状なのだ。「トランスジェンダーのTをLGBTQ +の枠組みから外せ」などという、過激かつ攻撃的な意見も存在する。
『イカゲーム』シーズン2におけるヒョンジュというキャラクターは、残酷なゲームという極限状況に際し、周囲の人間から差別的な対応をされながらも、思いやりを持ってゲームのなかで組んだチームを引っ張っていくという、多くの視聴者が共感できる存在である。こういった人物を登場させ、感情移入させることは、そんな現実の社会の危機的な状況に対して、ポジティブな影響をもたらす面がある。
その観点から見れば、『イカゲーム』シーズン2の試みには好意的に受け取れる部分もあるといえるだろう。このようなチャレンジをすることで議論が活性化し、ここで挙げたようなさまざまな問題点が、より広い場所で顕在化することになったという考え方もできるのだ。
社会に差別や偏見が存在する以上、映画やドラマなどの表現の問題、雇用の問題もまた、まだまだ継続していくことが予想される。そんな社会の在り方に対抗する考え方は、一般的に「ポリティカルコレクトネス」、日本では「ポリコレ」と略して呼ばれる試みの一部である。しかし、そんな対策自体への偏見や誤解もあり、バックラッシュによる攻撃の的になるケースも多いのだから、マイノリティ当事者や、チャレンジをする作り手たちの立場は、依然として厳しいものがある。

だがいずれにせよ、いままで隠されて、無視されてきた問題が、こういう機会に認知されることは、前向きにとらえられる要素ではないか。「ポリコレ疲れ」などと揶揄されたり、被差別者がより攻撃されるケースも発生している現状はあるものの、従来の保守的な考え方がことさら抵抗をするのは、マイノリティについての意識が前進している証でもあるからだ。

文化的背景や、各人の個人的体験、イデオロギーの違いによって、この問題にはさまざまな反応があるはずだ。しかし、これらの考え方や課題を多くの人が知っていくということは、社会が変わっていく上で必ず通らなければならない道だといえる。そして、その際に最も重要なのは、被差別的な立場に立たされてきた人々をあくまで尊重する姿勢であり、尊重する態度をできる限り多くの人々に促していくことなのではないだろうか。
『イカゲーム』シーズン2

12月26日(木)世界独占配信
監督・脚本・製作総指揮:ファン・ドンヒョク 製作総指揮:キム・ジヨン
出演:イ・ジョンジェ、イ・ビョンホン、イム・シワン、カン・ハヌル、ウィ・ハジュン、パク・ギュヨン、イ・ジヌク、パク・ソンフン、ヤン・ドングン、カン・エシム、イ・デイヴィッド、チェ・スンヒョン、ノ・ジェウォン、チョ・ユリ、ウォン・ジアン / コン・ユ(特別出演)
Netflixシリーズ「イカゲーム」シーズン1~2:独占配信中、シーズン3:2025年独占配信
作品URL:https://www.netflix.com/title/81040344