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【解説】Spotifyが日本の音楽業界への支払いや還元について年次レポートで初公表

2024.5.24

#MUSIC

Spotifyの年次レポートで日本のデータが初公開

Spotifyによる年次レポート「Loud & Clear」の2023年版が発表された。

「Loud & Clear」は、2021年から発表されているアーティストやレーベル、ディストリビューター(配信事業者)、音楽出版社などへの支払いや還元についてまとめた年次レポート。今回の発表では初めて国別のデータも公表。ドイツ、カナダ、フランス、ブラジル、イタリア、日本国内に関するデータが発表されている。

2023年に日本国内アーティストがSpotifyで生み出した印税は200億円以上であることが明らかとなった。この数値は日本でサービスを開始した翌年の2017年から1800%以上の増加となっており、ストリーミング市場全体の拡大が数字に反映されている形となる。また、その印税の約半分は海外リスナーによるものであることと、約60%がインディーズのアーティストやレーベルによるものであることも明らかになった。なお、2023年にSpotify全体として音楽業界に支払った総額は90億ドル(1ドル=155円換算で1兆3,950億円)に達している。

2023年にSpotify上で国内のアーティストが初めてのリスナーに発見 / 再生されたのは27億回以上にのぼった。Spotifyの「2000年代にリリースされた日本国内の楽曲」で、2023年の再生数ベスト5に2曲がランクインするなど世界的な注目が続くバンド・Lampは、ストリーミングサービスの普及で「音楽だけで生活できるようになった」ことと「インディ―アーティストが活動しやすくなった」旨をSpotifyのインタビューに対して述べている。インタビューはAyumu Imazu、Furui Riho、imase、Kan Sano、Michael Kaneko、Lampの6組に実施され、Spotifyサイト内特設ページ「Spotify Japan — For the Record」で公開。YouTubeでも一部を抜粋した動画が公開されている。

ロイヤリティシステムに関する新ポリシーの意図とは? 年1000再生未満は印税支払いの対象外に。

一方で、Spotifyは2024年4月からロイヤリティシステムに関する新ポリシーを施行。過去12ヶ月間で1000回以上の再生数などの条件を満たしたトラックのみがロイヤリティ発生の対象になった。

2024年4月以降は、過去12ヶ月間で再生数が1,000回以上の基準値に達している楽曲のみが、録音された音楽を対象とするロイヤリティプールの計算に含められます。
また、楽曲が対象資格を得るために必要なユニークリスナーの最低人数が定められているため、ユーザーがシステムを悪用して楽曲を何百回も再生しても対象資格を得ることはできなくなりました。必要な最低人数については、違法行為者によるさらなる操作を防止するため、公開していません。
Spotifyは、ポリシーの透明性を可能な限り確保し、アーティストがSpotifyでロイヤリティが発生する仕組みとタイミングを正確に把握できるようにすることを目指しています。

収益化の対象になる楽曲 – Spotify より

背景として、レーベル / ディストリビューターが設定している収益の引き出しができる最低金額(通常、1回の引き出しあたり2~50ドル)や、銀行での引き出し手数料(通常、1回の引き出しあたり1~20ドル)を上回ることができず、ロイヤリティを受け取れていないアーティストが多数いること、また少額すぎるゆえに受け取りが忘れられていることが説明されている。再生回数が年1000回未満のトラックに発生するロイヤリティは月平均で0.03ドルだが、合計すると年間4,000万ドルにもなり、これを年1000再生以上のトラックで按分して、アーティストの手元に行き渡る金額を増やすことがポリシー変更の主旨となる。

なお、Spotify上で前述した条件を満たす楽曲は、全体の再生数の99.5%にあたるとしている。また、このポリシー変更は、今まで支払われていなかったアーティストへのロイヤリティを再配分するものとして機能するため、Spotifyがアーティストへ支払う総額は変化しない。

新ポリシーでは人為的に操作されたストリーミングと、ノイズ音源(自然音、機械音、効果音、無音などを含む)を使った収益システムの不正操作へも対応。前者に対してはコンテンツの提供元に対する料金の請求、後者に対してはノイズ音源のジャンルのロイヤリティ基準としてトラック長が2分以上であることなどをあげている。

誕生から15年、音楽産業にとって欠かせない存在となったストリーミングサービスのこれから

ただ、Spotifyと著作権をめぐる論争は、定期的に勃発している。

2023年11月には南米・ウルグアイの著作権法改正をめぐり、Spotifyは権利者に追加の支払いが発生してビジネスを維持できなくなる可能性があるとして、同国でのサービスを2024年初頭に停止する声明を発表。しかし、同年12月に懸念していた改正部分が明確化されたとして、2024年でもサービスを継続している。

2024年5月には、米国著作権局によって指定された非営利団体・MLC(Mechanical Licensing Collective)がSpotifyを提訴。オーディオブック聴収の追加に伴う有料プランの再分類により、音楽出版社やソングライターに対するロイヤリティレートが減少するとMLCは主張しており、賠償などを求めている。また、同時期には全米音楽出版社協会(NMPA / National Music Publishers’ Association)が、Spotifyが適切なライセンスを取得せず作品を使用していると主張しているほか、The Wall Street Journalで開発中と報じられたユーザーが楽曲をスピードアップ / マッシュアップ / 編集できる「リミックス」機能に対する懸念と警告を表明している。

2008年にスウェーデンで産声をあげ、2016年に日本でもサービスを開始、現在は200以上の国と地域でサービスを展開しているSpotify。注目の次世代アーティストを発表 / 支援するプログラム「RADAR: Early Noise」を展開するなど、日本でもストリーミングサービスとして着実に存在感を増している。

音楽業界の構造に大きな変化をもたらした革命的なグローバルサービスであるが故に、展開する国によっては法的な軋轢が生じてしまうこともあるだろう。ときには古き慣習と戦わねばならない場面もあるに違いないが、業界を破壊するのではなく、様々な立場の意見に耳を傾け、今後も積極的に情報を公開しながら、各国の音楽産業を成長させていく一助として役割を果たしていくことを期待したい。

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