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音楽家にとって「20年」は長い歳月か。両者には共通の見解が
─蓮沼さんは2026年に活動20周年を迎えるとのことですが、心境はいかがですか?
蓮沼:僕はそもそも20年や30年といった長い年月を特別なものとして思ってないんです。特に、音楽に関してはそんなに「時間」は関係ないというか。例えば、もう現世にいない人の音楽でも新しく響いて聴くこともできるじゃないですか。
ジョン:そうだね、それは真理だと思う。たとえその作り手がもうこの世にいなくても、音楽がすごく新鮮に聴こえることはある。

蓮沼:Tortoiseの活動も35年近いですけど、コアなところはあんまり変わっていないですよね。
ジョン:僕もそんなに長い時間が経った感じはしないね。そもそも音楽においては「時間がどれだけ経ったか」ってあまり重要じゃないと思う。
蓮沼:わかります。僕も周年の企画はこれまでも何もやってないんですけど、20周年はやったほうがいいと言われて。
ジョン:そんなことないよ。
蓮沼:(笑)。
ジョン:節目みたいなものって正直あまり意味はないというか、僕はそこまで気にしないタイプで。
─でも『TNT』の全曲演奏ライブはやりましたよね? 僕と蓮沼さんはブルックリンまで観に行ったんですよ。
ジョン:本当? でも実は、あれは僕たち発信のものではなくて。アニバーサリーだからってプロモーターから提案されて、「(やれやれといった様子で)OK、そうしようか」って感じだった。
─蓮沼さんが活動をはじめた2006年ごろ、Tortoiseにとってどんなタイミングでしたか? 作品的には『It’s All Around You』(2004年)と『Beacons of Ancestorship』(2009年)の間の時期です。
ジョン:うーん、よくわからないね。僕はいつも「その瞬間」にいる感じだから。哲学的な意味とか、感情的な深いものがあってどうこうじゃなくて、とにかく「作業をする、そして何が出てくるかを見る」っていう、いつもそれだけ。
蓮沼:昨日、“Crest”(『It’s All Around You』収録曲)も演奏しましたけど、最高でした。聴けると思ってなかったので嬉しかったです。
ジョン:ありがとう。僕の場合、どんな音楽を作ろうか、哲学的、感情的に考えるより、その時々で作品に取り組んだ結果があるだけで。あと、あらかじめルールを決めるようなことも僕にはない。「人間の声を使わない」とか決めごとは何もなくて、使いたいと思ったとき、使いたい音をただ使うだけ。僕の場合、音楽においては何かを「決定する」ってことをしないね。
蓮沼:共感します。僕も自分のあり方とか、活動の方針とかも何も決めてないですから。
─活動20周年に向けた「蓮沼執太チーム」の新作で、ジョンさんにエンジニアリングをお願いした経緯というのは?
蓮沼:もう単純に、ジョンさんに音を渡したらどんなふうに僕らの音が変化するのかなって好奇心です。今のジョンさんが思うようなサウンドメイキングにしてほしいと思っています。東京でレコーディングをして、ジョンさんに送りました。実は、録音した楽曲が作られたのはもう15年ぐらいのものなんですね。それだけ「時間」という枠組みを超えて手がけてほしいと思っています。
ジョン:音源はまだじっくり聴けてないけど、楽しみだよ。
─長年エンジニアとしての経験を積まれてきて、ジョンさんは自身の音作りやサウンドアプローチの仕方に変化を感じますか?
ジョン:本質的には変わっていないかな。細かな美的判断のような部分とか、機材のアップデートによる変化はあるけど、自分のなかで基本的にはかなり一貫していると思う。

ジョン:僕は今ではほとんどコンピューターを使って制作していて、もう録音機材のほとんどはデジタルに移行している。以前はミキシングコンソールやエフェクト用の機材を使っていたけど、今のコンピューターはほとんどのことができるし、音もすごくいいからね。
僕にとってもう、アナログの録音機材をわざわざ使う理由がなくて。壊れるし、修理にはお金がかかるし、安定しないし、すごく場所を取るから(笑)。シンセサイザーはまだあるけどね。