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蓮沼執太がTortoiseから受け取ったもの。ジョン・マッケンタイアと大いに語る

2025.8.13

#MUSIC

21世紀を目前に、音楽制作のあり方は大きく動いた。コンピューター上で録音を行うことは今ではあまりにも当たり前になったが、いわゆるデジタルオーディオワークステーション(DAW)を用いた先駆的作品のひとつとして広く認知されているのが、Tortoiseの『TNT』(1998年)だ。

2026年に活動20周年を迎える蓮沼執太は、高校時代に『TNT』の革新性に洗礼を受けた。そのインスタレーションや劇伴制作など、多岐にわたる活動の背景には、Tortoiseからの影響が大いにあったと語る。

今回、NiEWではTortoiseの中心メンバーであるジョン・マッケンタイアと蓮沼執太の対談を実施。AIの飛躍的発展によって「音楽そのもの」のあり方まで大きく揺らぎつつある現在、両者は「音楽を作るということ」にどう向き合っているのか。

音楽ライターの南波一海を進行に迎え、『FESTIVAL FRUEZINHO 2025』での来日公演の翌日に語り合ってもらった。

左から:ジョン・マッケンタイア(Tortoise)、蓮沼執太

蓮沼執太がTortoiseから学んだ音楽制作のスピリット

ーまず蓮沼さんがTortoiseや、いわゆるポストロックから受けた影響を教えてください。

蓮沼:高校生のときに『TNT』(1998年)がリリースされたんですよ。そのときからTortoiseの昔のアルバムや同世代のバンド、ジョンさんのやっていたBastroやシカゴで活動している音楽家を聴いてました。サウンドだけ聴くと全然違う音楽なんですけど、「人がやっている音楽」なので、BastroもTortoiseもどこかハードコアというか。それは昨日も感じましたね、ジョンさんのドラムに。

ジョン:まあ、マシンにやってもらうこともあるけどね。

蓮沼:(笑)。Tortoiseはいろんなジャンルのサウンドやスタイルがひとつのバンドに入っていて、衝撃を受けました。そのことは10代から今に至るまでずっと、かっこいいスタイルだなと思っているので影響を受けています。

蓮沼執太(はすぬま しゅうた)
1983年、東京都生まれ。蓮沼執太フィルを組織して、国内外での音楽公演をはじめ、映画、演劇、ダンスなど、多数の音楽制作を行う。また「作曲」という手法を応用し物質的な表現を用いて、彫刻、映像、インスタレーション、パフォーマンス、ワークショップ、プロジェクトなどを制作する。2026年、活動20周年を迎える。

蓮沼:僕にとってリアルタイムで初めて聴いたTortoiseのアルバムは『Standards』(2001年)で、当時僕は18歳、高校3年生でした。ジャケットにはアメリカの国旗が描かれていて、そこにどんな意味があるかは直接的にはわからないですが、僕、誕生日が9月11日なんですよ。

ジョン:おお、マジか。

蓮沼:『Standards』が出たのは2月でしたけど、Tortoiseを聴きながら大学の受験勉強をしてました。歌がないからすごく集中しやすかったんです(笑)。

ジョン:(笑)。

蓮沼:それは冗談ですけど(笑)。歌のないアルバムで、ジャケットはアメリカの国旗で、リリースの約半年後に9.11(アメリカ同時多発テロ)が起こったんですよね。

ジョン:本当にね。信じられないことだよ。

ジョン・マッケンタイア(John McEntire)
1970年生まれ。アメリカ・オレゴン州ポートランド出身、ドラマー / マルチプレイヤーで、エンジニア、プロデュサーの顔も持ち、その活動は多岐に渡る。1990年、シカゴのミュージシャンたちとともにTortoiseを結成、これまでに7枚のアルバムを発表。2025年10月には、約9年ぶりとなる新作のリリースを控える。

蓮沼:言葉がないのに、政治的なアティチュードも伝わってくる音楽。そういうものは10代の僕にとって初めてだったんです。例えばギターを持って歌えば、曲の中の言葉で表現することができますよね。あるいはヒップホップもそう。でもTortoiseの『Standards』のように歌のない音楽でアティチュードを受け取ったのは、結構な衝撃で。

この作品と出会って、自分の創作行為がどう社会にコミットできるのか考えるきっかけになったし、そこまで立派なもの、力強いものでもないにしても、音を通じて自分の姿勢を打ち出すことができるんだ、と影響を受けました。昨日のライブでも、”Seneca”(『Standards』収録曲)の前にパーカッションのダン(・ビットニー)が、「これはプロテストソングだ」って言ってましたよね。

ジョン:そうだね。『Standards』を作っていた当時、僕らはもうすでにジョージ・ブッシュへの怒りを音楽に託していたと思う。ドナルド・トランプと同じくらい、ブッシュのことを嫌っていたからね。

Tortoise『Standards』収録曲

ジョン:ある意味、制作時に9.11の予兆のようなものを感じていた。世界がものすごく悪い方向へ向かっている気がしていて。特に、ジョージ・ブッシュという「影」が世界中に影響を及ぼしていた……まあ、僕たちは政治的信条を強く持っているにせよ、表立って表現をしているわけではないけどね。

Tortoiseのケミストリーが約30年もの間、途絶えない理由

─『Standards』は今から24年前の作品ですが、この音楽がここまで長く愛されるとは想像していましたか?

ジョン:もちろん、そんなことはまったく考えてないよ。ただ僕らは最初のアルバムを作っていたときからずっと、本当に音楽にエキサイティングしていた。Tortoiseのみんなと一緒に音を出せることがすごくフレッシュで、それまで僕らがやってきたどんな音楽ともまったく違っていて。「これはすごく特別だな」って感じていた。だからこそというか、こうして長く聴かれ続けていることに驚きはないし、自然なことのようにも思えるな。

Tortoise『Standards』を聴く(Apple Musicはこちら)

蓮沼:そもそも、バンドのみなさんは曲を覚えているんですか? 事前のリハーサルは1回だけだったと聞きました。

ジョン:何度も何度も演奏してきて、もう身体に染みついてるからね。やっぱり僕らにとっては、化学反応のような関係性を持つメンバーが集まったグループだったのが一番大きかったと思う。もし他の誰かがいたら、その化学反応は全然違うものになっていただろうね。

蓮沼:そうですよね。人が変わったら違うものになる、というのは自分のプロジェクトにおいても共感します。昨日のライブを観ても思うし、曲によって各々の楽器編成を変えていくこと自体も音楽的に見えました。

この取材の前日に行われた『FESTIVAL FRUEZINHO 2025』でのTortoiseのライブ写真

ジョン:フレッシュな音楽を求めていたとはいえ、それでも僕らなりの「目印」みたいなものはたくさんあった。例えば、1970年代初頭のマイルス・デイヴィスは僕らにとってすごく大きな存在で。

あとはブライアン・イーノとデヴィッド・バーンが一緒に作った『My Life in the Bush of Ghosts』を初めて聴いたとき、「あ、こんなことしてもいいんだ」って思わされたし、This Heatもそう。そういう音楽が僕にとっては最高峰のひとつで、他にもポストパンクとか電子音楽、ダブ、いろんな音楽をとにかく吸収した。

─そして今ではTortoiseのサウンドは、蓮沼さんのような後輩たちの新たな目印になったわけですよね。

ジョン:そうかもね、ありがとう。10月にリリース予定の新しいアルバムには、完全に即興で録音されたトラックが1曲だけ入ってる。ほんの少し編集しただけで、あとは全部インプロビゼーション(即興)。

蓮沼:新作の制作はどうでしたか?

ジョン:正直フラストレーションもあった。パンデミックもあったし、今とにかく僕らは何をするにも時間がかかるようになったからね。でも素晴らしいものになったよ、満足している。

蓮沼:それぞれの活動もありますし、生活の拠点もバラバラだと時間がかかりますよね。だからこそ楽しみです。

2025年に発表されたTortoiseの新曲(各ストリーミングサービスで聴く

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