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型にはまり過ぎない。習得した型を「どう発展させていくか」が駒田早代の原動力
ーSNSでは洋楽のギターリフを三味線でカバーした動画を多く投稿されていますが、普段はどんな音楽を聴くんですか?
駒田:演奏会で披露する民謡を聴くときもあるし、次に投稿する動画用に洋楽のギターリフを聴く時もあります。Mrs. GREEN APPLEの楽曲の展開の多さは、私自身の楽曲制作にも参考になることが多くあるので、よく聴きますね。電車とか乗っている時に、シャッフルで民謡の次に(カバーしたことある)レッチリが突然流れてきてびっくりすることもしょっちゅうです(笑)。アルゴリズムもびっくりしてるかもしれません。
ー駒田さんの音楽の再生履歴を反映するように、2024年に発表されたアルバム『月前恋歌』は、電子音楽っぽいサウンドやケルト調の楽曲もあったのが驚きでした。三味線の音にあまり馴染みがない自分でも、普段聴いてる音楽のように楽しめた作品でした。どのように楽曲制作に取り組んだのですか?
駒田:ギタリストの渥美幸裕さんと制作したのですが、「どんな音を入れたい?」というところから始まったんです。私はケルト音楽がすごく好きなので、フィドルを取り入れました。フィドルとバイオリンって、実は同じ楽器なんですが、クラシックの世界では「フィドル」よりも高尚なものであるという理由で「バイオリン」と呼ばれるようになったらしいんです。フィドルは、もともと酒場などでみんなが手拍子しながら楽しむような、庶民的で生活に根ざした音楽を奏でるための楽器だった。私は、そういう暮らしの中から自然に生まれてきた音楽の方が好きなんです。だから、ケルト音楽取り入れたかったのかもしれない。「敷居が高い」音楽よりも、そこに居合わせた誰もが楽しめるような、生活と結びついた音楽の方が好きなんです。
駒田:ルーツをたどると、三味線もシルクロードを通って中国から伝わってきたものであり、ケルトやフィドルも、西側の「向こうの音楽」だった。今でこそ「伝統楽器」とされる三味線も、かつては民謡を演奏するための「生活に根付いた音楽」だったわけじゃないですか。通ずるものがあると思いますね。
ーそういう意図があったんですね。今やロックバンドがロック以外のジャンルを取り入れた楽曲を発表することは当たり前なのに、三味線奏者の方のアルバムだから三味線で溢れたサウンドなのだろうという固定観念があったんだと思います。「なんでもありでいいんだな」と駒田さんのアルバムに改めて気付かされました。
駒田:型にはまり過ぎても良くないなって思います。最初に基本を覚えるうちは、ルールに従うことは大切だと思うんです。でも、それを習得したあとに、「どう発展させていくか」が本当に大事だと思うんです。その型にはまったままでいるのは、三味線奏者としてはいいかもしれないけど、アーティストとしては限界があると思ってて。
だから私は、いろんなジャンルの音楽家とコラボレーションしながら、三味線という楽器をどう生かすか、どんな音が出せるかを常に探っています。時には、津軽三味線特有の奏法が合わない楽曲もある。「津軽三味線の正しい弾き方」に捉われず、この楽器から出る音をどうやったら生かすことができるか、津軽三味線を使う意味を考えながら取り組んでいます。
