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音楽家と漫画家がそれぞれの視点で語る、コンテンツが溢れる時代に必要な「意外性」
近石:“猫のしわざ”を作るにあたって原作を読ませていただいた時は、タイトルのキャッチーさ、設定の面白さはもちろん、次の展開がどうなるのかワクワクしました。登場人物にツッコミが誰もいないんですよね。人間ではなくなってしまう危機なのに、みんなで猫を気遣ってたりするのが新しいなと。ストーリー自体は王道のゾンビものなのに、「ニャンデミック」という要素が乗っかるだけでこんなに新鮮になるのかと感心しました。猫好きの細かいところまで描写されてるし。
メカルーツ:うれしいお言葉です。
近石:僕は、漫画家さんはシンガーソングライターに近いと思うんですよ。ストーリーが曲で、絵を描くのが歌うことにあたるのかなと。お2人は原作と作画に分かれているじゃないですか。音楽だとバンドのように誰かとやることによって化学反応が起こることがよく言われますけど、漫画でもそれはあるんですか?
ホークマン:『ニャイリビ』の第1話のネームができて、編集者さんと一緒に作画の方を探してたんですけど、なかなか決まらなくて。とにかく、ギャップを出せる方を探し求めていた記憶があります。例えると、自分がZ級映画のストーリーを持っていって、それをハリウッドスターに演じてもらうような。自分の作画だと、そのギャップが出ないんですよね。その点、メカルーツ先生はブラッド・ピットレベルの人なので。
メカルーツ:僕はブラピだったんですね(笑)。確かに好きですけど。

ホークマン:アクションがすごいという意味ではトム・クルーズかもしれない(笑)。今の『ニャイリビ』はメカルーツ先生の絵によって大真面目にふざけるシリアスギャグになってるんですね。自分が描いたらただのギャグ漫画になっちゃって、インパクトに欠けるものになっちゃう。メカルーツ先生の劇画チックな絵が乗ると、途端にギャップが引き出されるんです。それは意識的に目指してました。

メカルーツ:最初はそんな話ばっかりしてましたね。
近石:なるほど、すごく腑に落ちました。今はコンテンツがありすぎるから、そういうギャップとか意外性が絶対必要なんですけど、それを1人から生み出すのはかなり難しいと思うんです。僕の場合は編曲家さんに曲のアレンジを頼んだ時に、僕になかった音楽性を取り入れてくれて化学反応が起こったりするんですね。でも、狙って上手くいく確証はないし、再現性もあまりないと思うんですよ。また同じ編曲家さんとやればいいかというと、そんなに単純ではない気もしてて。
―「この前みたいなやつをまたお願いします」では、ギャップにならないですもんね。
近石:そうなんですよ。僕も普段から大真面目にふざけるスタンスでやりたいと思っていて。最近リリースした“フィナーレ”という曲は、『バレエ男子!』(毎日放送)というドラマのエンディングテーマだったんです。バレエを踊る男の子たちの物語なんですけど、僕の友達にもバレエをやってる男の子がいるので、その子が全力で踊る横で僕も真剣に歌ってる動画をSNSに上げたんです。そこにギャップはあったと思うんですけど、何本も上げてたら見慣れてきちゃうんで、今度はその子に歌ってもらって僕が大真面目に踊る動画を上げました。そういうのが性に合うので、『ニャイリビ』のギャップがある世界観に共感したんだと思います。
メカルーツ:話を聞いてたらだんだん思い出してきました。ホークマン先生と担当さんに声をかけていただいた時、僕は39歳くらいだったんですよ。年齢的に、この先の人生で描ける漫画はあと2本くらいかなと思っていて。ここでやらなきゃダメだなと。この漫画がコメディだとはわかっていたんですけど、そうじゃなくてシリアスでスペクタクルな話だと思い込もうとしたんです。原作を曲解して、1人だけ全然違う方向を向いて作画してました。

―原作からできるだけ飛躍することでイリュージョンを生み出そうとしたと。
メカルーツ:自分に負荷をかけながらやってたんで、メンタルおかしくなりそうでした(笑)。メカルーツという漫画家の設定まで考えたんですよ。自分自身じゃなくて、アメリカの西海岸に住んでるイラストレーターで、日本から来た仕事をやっているという。そこまでやった苦しさが、いい意味でこの漫画の笑いにハマったんだと思います。ホークマン先生も最初の頃はメンタルボロボロでしたよね?
ホークマン:まあ、ボロボロでしたね(笑)。『ニャイリビ』はそれまで自分がやってきた漫画とは違うテイストなんで、自分もホークマンっていうペルソナというか、『ニャイリビ』を生み出す人格を作る必要がありました。
近石:音楽だと、川谷絵音さんみたいにバンドごとにコンセプトを変える人や、音楽性によって名義を変える人がいますけど、漫画家さんでもあるんですね……! 衝撃です。でも、お2人にはそのやり方がハマってるということも確かでしょうし。
ホークマン:でも我々は特殊な事例だから、話半分で聞いてもらった方がいいです(笑)。