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ネズミ同士のメタ的な会話

展示室の隅っこをよく見ると、2匹の小さなネズミが壁を食い破って顔を出している。『物語は語りの中に』というアニマトロニクスの作品だ。ライアン・ガンダーの娘2人が声を当てているそうだが、このネズミたちの掛け合いが非常に面白いのである。ぜひ、そばにしゃがみ込んで会話に耳を傾けてみてほしい。

オリーブという名前で呼ばれる一方のネズミは、自分たちがライアン・ガンダーの作品であり、アニマトロニクス彫刻であるといきなりメタな発言をして鑑賞者を驚かせる。ところがもう一方のネズミ(こちらは名前を呼んでもらえない)は、それに対して「えっ、じゃあ私は……ロボットってこと? 私たち、ロボット扱いなの?」と動揺を隠せない。噛み合っているようで噛み合っていない2匹の会話は、不条理演劇のひと幕を見ているようである。それに、口をぱくぱくさせてしゃべるネズミたちの姿は、作品の本質とは関係ないところかもしれないが、とっても愛らしい。では、もしこうして「自分は本物なのかどうか」と議論する存在がネズミではなくサル型だったら? 人型だったら? そう想像してみると少し気味が悪くなった。

同じ空間にひっそりと展示されている作品『アイディア・マシン』も見逃さないようにご注意を。特に案内などは無いのだが、真鍮のプレート中央にあるボタンを押すと、ライアン・ガンダーが考えた「まだ実現していないアートのアイディア」がおみくじのように出てくるという作品だ。筆者が手にしたアイディアは『VIDEOS OF PEOPLE STANDING STILL(人々がただじっと立っているだけの映像)』だった……。