人間と競走馬の20年にわたる壮大なストーリーを描いてきた『ザ・ロイヤルファミリー』(TBS系)がついに最終回を迎える。
主人公である秘書の栗須栄治(妻夫木聡)を伴走者に、馬主の山王耕造(佐藤浩市)から耕造の隠し子・耕一(目黒蓮)の2代に渡って競馬の夢を追い続けた「ロイヤルファミリー」たち。
一人ひとりの登場人物たちも魅力的な本作について、前半を振り返った記事に続いて、ドラマ映画ライターの古澤椋子がレビューする。
※本記事にはドラマの内容に関する記述が含まれます。あらかじめご了承下さい。
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後半は親から子への継承の物語に

『ザ・ロイヤルファミリー』の前半は、株式会社ロイヤルヒューマンの社長で馬主の山王耕造(佐藤浩市)が馬と夢にかける情熱に賛同した者たちの物語だった。そして、その耕造が去った後半は、親から子への継承の物語へと姿を変えた。
それは、夢の継承であり、血や才能の継承の物語でもある。ドラマは耕造と耕一(目黒蓮)、ロイヤルの名を冠する馬たちの両面から継承を描くことで、親子と馬を支える人々の葛藤が浮かび上がらせてきた。
そして、耕造から耕一への継承を見届けるのが、主人公・栗須栄治(妻夫木聡)だ。彼がいなければ、継承は行われず、ロイヤル社の競馬事業自体が空中分解してもおかしくなかった。美しい継承の物語には、表には出てこない立役者がいる。継承の只中にいる人物ではなく、伴走者を主人公に据えたことが『ザ・ロイヤルファミリー』の味わいのひとつになっていると言えるだろう。
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耕造から耕一へ、伴走者としての妻夫木聡の変化

本作前半について書いた記事で、妻夫木聡のピュアな表情について触れた。物語の後半になるにつれて栗須は相応に歳を取っていくが、その表情の魅力が損なわれることはない。伴走者でありながら、自分事として山王家を見つめている表情にはまだピュアさが残っている。
特に印象的だったのは、第7話の終盤。耕造は癌を患いながら、耕一と約束した愛馬・ロイヤルファミリーの競走馬登録まではと、なんとか命を繋ぎ止めていたが、ロイヤルファミリーのデビュー戦勝利を病室で見届けた末に、命を落としてしまう。
現地ではロイヤルファミリーの勝利の歓喜に包まれる中、電話でその事実を知った栗須は耕一(目黒蓮)に、耕造が亡くなったことではなく、「今このときから、耕一さんがファミリーの馬主です」と告げる。わずかに動揺する耕一を安心させるように優しい笑顔を見せながらも、栗須の瞳には涙が滲んでいく。その時の栗須の頭には、競走馬のために耕造と共に奔走した日々が駆け巡っていたことだろう。それでも、耕造の思いに報いて耕一に夢を継承し、支え続ける決意を持ち、栗須は凛とした表情を見せ続けた。
レースの勝利と人の死。喜びと悲しみが対比された第7話の終盤は、悲しみを抱えながらも、夢の実現に向けて決意を新たにする、伴走者・栗須栄治にとっての第1章の終幕、第2章の幕開けとして、最高の場面だったと言える。
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馬への不器用な情熱を丁寧に表現する目黒蓮

本作の後半を語る上で欠かせないのが、耕造の隠し子・耕一を演じる目黒蓮だ。
登場したときの耕一は、耕造に対して意固地になっていたが、馬が絡むと話は別だ。ロイヤルホープの次の世代の所有についての話を契機に、耕造と親子として向き合うことができた。親子のわだかまりよりも、馬のより良い未来を考えることの方が、耕一にとっては重要だったのだろう。
いつも顔をを落として話していた耕一であったが、話が馬のことなるとスッと前を見据える。その視線の熱さには、耕造の馬への情熱と近いものが感じられた。
耕一が耕造に提示した相続馬限定馬主を引き継ぐ条件は、ロイヤルホープの子どもを引き継ぐこと。耕一は栗須に、ロイヤルハピネス産駒(さんく)の馬であれば、相続したいと告げる。ロイヤルハピネスは、耕一の母・中条美紀子(中嶋朋子)が耕造のために選んだ馬だった。馬の話になると早口で相手をねじ伏せるように語る姿には、美紀子の論理的な相馬眼(そうまがん)を感じさせる。目黒の一つひとつの芝居が、この物語における継承を強く印象づけるのだ。
目黒といえば、ドラマ『silent』や『海のはじまり』などでの、複雑な葛藤の繊細な表現が印象的な俳優だが、耕一役はそうした役柄とは一線を画し、意思が強すぎて空回りする未熟なキャラクターに見える。そうした耕一の大きすぎてコントロールできない馬への不器用な情熱を、目黒は視線の向け方や表情のこわばりで丁寧に表現している。
そんな目黒の表情からも伺える耕造に似た頑固さ。この頑固さゆえに、耕一が耕造とは異なる形でロイヤルファミリーを支えてきたチームの面々とぶつかり合っていくことも、物語後半の見どころとなった。