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フィルムメーカー小田香インタビュー 他者の声を拾い、遠い未来へ届けたい

2025.2.20

#MOVIE

記憶の依り代として言葉を拾い、遠い未来へ届けたい

—小田さんはリサーチなど、撮影前の時間をしっかりと確保されている印象があります。

小田:反射神経で撮っていいものと、そのままの自分では撮る能力がないけれど、リサーチと時間を重ねたら撮れるかもしれない、という物事がある気がしています。『GAMA』(2023年)と『Underground アンダーグラウンド』(2024年)で撮影した沖縄のことなどは正に後者ですね。

沖縄戦で多くの住民が命を落とした自然洞窟「ガマ」の中で、平和の語り部としてガイドを務める松永光雄と、その傍らに佇む「影」の姿を映す / 『Underground アンダーグラウンド』場面写真 ©2024 trixta

—沖縄を撮影し始める前には、どんな時間を設けていたのでしょうか。

小田:最初はプロデューサーの一人と、沖縄で平和ガイド・遺骨収集の活動を続ける松永光雄さんにガイドになってもらって、結構な数のガマ(編注:沖縄戦で多くの住民が命を落とした自然洞窟)を回りました。そのときに、松永さんの語りもセットで体験させてもらって。それが1週間ぐらいやったんかな。

その後『Underground アンダーグラウンド』出演者の吉開(菜央)さんと、助手の方ともう一度沖縄に行って。いくつかのガマや米軍基地を見ました。次に映画に関わるスタッフ全員に沖縄で松永さんの語りの体験を浴びてもらい、撮影の期間に入った感じです。

作中で「シャドウ(影)」を演じた映画作家・ダンサーの吉開菜央 /『Underground アンダーグラウンド』場面写真 ©2024 trixta

小田:自分はこれまでの映画でも、基本的に異邦人としてプロジェクトに参加していたけど、沖縄についても同じことが言えると思っていて。それに沖縄については異邦人であることに加えて、加害側である認識もある。「加害」と言ったら極端な言い方かもしれないけど、沖縄県外の大阪で暮らして、仕事をしている自分はものを押し付けている側である、というのは間違いないやんか。

—いち市民としても、その構造を忘れてはいけないなと思います。

小田:そういう中で、自分が沖縄の物語を消費せず、搾取せずに何か作ることは本当にできるのかな、とずっと思っていました。けど、そこに松永さんがいてくださったことはめちゃくちゃ大きくて。「松永さんを通しての沖縄」「彼が提示してくれる沖縄」であれば、やれることはあるかもしれないと思ったんです。それで撮ったのが『GAMA』でした。

—まず松永さんがご自身の語りを通して沖縄の記憶を伝え、さらにその語りを小田さんが映画で記録し、観客に伝えていくという。

小田:直接的に沖縄戦を経験されたわけではない松永さんが、ご自身を依り代のようにして人々の記憶や物語を伝えていらっしゃる中で、私もその一助になれたらいいかな、と。

自分は今37歳ですけど。多分、その倍のあと37年ぐらいは生きるじゃないですか。その中で数本の長編映画を撮るとして、じゃあどんな内容を残していったほうがいいかなと考えると、もちろん自分の感覚も表現はするけど、伝えたいことがいっぱいある人たちの言葉を拾っていこう、と今は思っているんです。

—小田さんは人間のことはもちろん、言葉を話さない生物の姿も積極的に捉えようとしている印象があります。過去作にも猫、鳥、牛、魚やゴキブリ、ノミ、蜘蛛などの存在が見え隠れしますが、そうした存在の記憶についてはどう考えられていますか。

小田:動物たちの記憶は間違いなく想像できないと思っているんですけど。でも一方で、地層を遡っていったら「これが生きてた」「あれが生きてた」って事実もあるじゃないですか。そう考えると、我々の集団的な意識や記憶は、真核生物時代の何かにも宿っていると思うんです。その意味では、動物と人間が別とは考えていなくて。同じタイムラインにいるイメージです。

—『セノーテ』では「これは私たちの物語」という言葉が繰り返され、新作『Underground アンダーグラウンド』では、単数の「われ」が複数形の「われわれ」に変化する象徴的なシーンがありますが、小田さんが「私たち」や「われわれ」という言葉を使う際には、きっとそのタイムラインが意識されているんですね。人間がいなくなった未来のことも。

小田:そこまで含めてるつもりです。人間の形じゃなくなったとしても、きっと何かしらがいると信じて、そっちに向けて「あなたたちの一部だったかもしれないよ」って言ってる。自分たちが作っている小さな映画が遠くまで生き残って欲しいという感覚は、一応意識しています。

『Underground アンダーグラウンド』予告編

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