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音楽が苦手だった「ん・フェニ」が音楽を信じられるようになるまで 初インタビュー

2025.9.12

ん・フェニ“SPARK SPARK”

#PR #MUSIC

あらゆる枠組み、規範を解体し、自ら自身を構築するソロアーティスト「ん・フェニ」。オルタナティブロック、インディーロックを軸にしながらも、ジャンルの垣根を超えたサウンドを織り交ぜ、独自の解釈で楽曲を制作し続けるん・フェニ。2020年に東京を拠点に活動を開始し、楽曲、MV、ビジュアルと、全てのプロデュースに携わり、自身の伝えたい思い、居たい世界を自ら模索し、自身の手で作り上げている。
 
また、「味の素×北欧 暮らしの道具展コラボWeb CM ひとりごとエプロン」、「Abema Prime」、2025年公開予定の石橋夕帆監督映画『ひとりたび』への楽曲起用など、自身の世界観だけでなく、着実に活動の幅を広げている注目すべきアーティストの一人だ。
 
ん・フェニのInstagramを覗くと、同一人物とは思えないくらいビジュアル表現を自由に変化させ、人間離れした妖艶な姿が印象的に映る。そんなん・フェニが歌うのは、日常で感じる怒り、地続きの生活、規範からの脱却、自身の手で掴む希望……と、「完璧」ではない自身の人間らしさだ。自身を「リアリストだ」と語るん・フェニが、現在のようなスタイルを確立し、優しくも力強く生きることの苦しみと喜びを伝えるに至るまでの軌跡を伺った。


田舎でのびのびと過ごした幼少期から、ロリータで田んぼ道を歩いた中学時代

ーん・フェニさんが音楽活動を始める前の幼少期について教えてください。

ん・フェニ:超田舎の山のなかで一人っ子として生まれ育ちました。小学校、中学校は人数が少なく、ずっと同じメンバーだったので、そのなかでは目立っていたと思います。良くも悪くも「変な人」という見られ方をされていたと思うし、私自身もそれを自覚していました。

中学生の頃はインターネットや雑誌を見るのに夢中で、アニメや原宿ファッションも好きだったので、『下妻物語』みたいに田んぼ道をロリータファッションで歩いているような子でしたね。幸運にも学校の生徒数が少なくて、小さい頃から私を知っている人ばかりだったので、どんなに個性的なことをしていてもそういうものだと存在が許されてました。自分も周りとは違うことをアイデンティティとして肯定できていたので、傷つくことはあまりなかったんですけど、高校に進学してから少しずつ変化していったように思います。私服の高校に通ったのもあって、ファッションでコミュニティが分かれていったんですよね。制服という制約から自由になり、自分の表現をすることができるのと同時に、コミュニティの分裂も感じていました。

ん・フェニ
ドリームロック、オルタナティブロックを軸とした楽曲をバンドスタイルで制作し、ライブ活動を行うソロ・アーティスト。「味の素×北欧、暮らしの道具店コラボWeb CMひとりごとエプロン」や「ABEMA Prime」EDテーマに楽曲が起用される。セルフプロデュースで活動しており、ビジュアルデザインや映像制作を自身でプロデュースしているほか、他アーティストへの楽曲提供なども行っている。主にバンドスタイルでライブ活動を展開。

ーコミュニティの分裂が見えたときに、自分がありたい姿よりも、「普通」に見られる容姿やファッションを選択する人もいると思うのですが、当時のん・フェニさんはどうでしたか?

ん・フェニ:自分らしくいることで誰かが共感してくれたりする喜びも感じていたし、「普通」になることのラクさも感じていました。多くの人が相手の情報を視覚的に得て、コミュニケーションを図りますよね。自分のなかにある固定概念みたいなものを客観的に見つめ直して、フラットに捉えるようになったんです。「普通」であろうとすることは、人間という集団生活をする生き物が作り出した素晴らしい文化だなとも思えるようになり、自分らしくいようとすることも、「普通」になろうとすることもどっちもアリだなと思えるようになりました。

それに、周りから「個性的だね」とか「変だね」と言われることが多かったから、自分自身もそうだと思っていたけど、何か強い芯があって突き詰めて個性的なファッションをしていたわけではないんです。なので、当時はなんでも好きだったんですよね。ユニクロでまとめたシンプルな服も好きだったし、ロリータも好き。全部に良さを感じていたので系統を一つに絞ることはできていなかったです。

救ってくれたのは音楽そのものではなく、音楽の周りにいた人たち

ーそうした周囲と自分を見つめるなかで、表現活動を始めようと思ったきっかけを教えてください。

ん・フェニ:きっかけはなくて、「自分で作る」ということがずっと身近なことだった、という感じなんです。東京への憧れもすごくあったし、もっと自分と共感できるような人に会いたいという気持ちが大きくて。とにかく人に見せたり、感想をもらいたいという気持ちが小さい頃から強かったんですよね。本格的なものではなかったけど、絵を描いたり、「歌ってみた」を録音してみたりと、田舎で何もないからこそ自分で作るということが生活だったんです。ただ、音楽自体は全然聴いてこなかったというか、むしろ苦手で。特に日本語の歌詞の曲は、いろんなことを感じ取りすぎて受け止め方が分からず、1日をダメにしちゃうくらい苦手でした。

ーそれでも音楽を表現の軸に置いたのはなぜですか?

ん・フェニ:ある時「音楽に救われたことのない奴が音楽をやるな」と言われたことがあって。私は音楽をやりたいと思っているけど、音楽に救われたことはないし、むしろ傷つけられることの方が多かったから、すごく腹が立ったんです。でもその時、じゃあどうして音楽をやりたいんだろうと考えたら、「音楽のことは好きになれないけど、音楽の周りにいる人が好き。その人たちと一緒にいたいから」なんだと気づいて。私は音楽業界にいる人たちが好きで、その人たちと一緒にいたかったんです。

ー音楽業界にいる人たちを好きになったのはどうしてでしょうか。

ん・フェニ:ちょうど進路を模索していた時にやっていたお仕事の業界が、セクハラが当たり前になっていた環境で。私一人が「これっておかしくないですか?」と声をあげても、それが当たり前になっているコミュニティの中ではどうにもならない。かと言ってバカなふりをして受け入れるのも嫌で、すごく疲れてしまったんです。でも、私がライブハウスで出会った音楽業界の人たちは、そう思う私を受け止めてくれて。しかも、「ギターのためだから」と使っていなかったギターを譲ってくれる人がいたり、分からないことがあったら質問に答えてくれる人がいたりと、それまでのコミュニティに疲れていた私を救ってくれたんです。

ーいざ音楽をやるとなったときに、苦手意識のあった音楽とはどのように向き合っていったのでしょうか?

ん・フェニ:私の場合は、音楽というものを細分化して学問として捉えることで、音楽を設計図として受け取れるようになっていきました。これまでは、大きな感情やエネルギーを感じすぎてしまって、音楽を聴けなかったんです。短大に通っていたときに、「デザインには全て理由がある」ということを教えてもらったんですけど、それと同じように、デザインとして音楽を分解することによって吸収できるようになっていったんです。最近は「音楽が好き」だと言えるようになってきていて。それはライブのMCでちゃんと喋るようになったのも影響しているのかなと思います。

ーMCでちゃんと話したいと思うようになったのはなぜですか?

ん・フェニ:MCをしっかりやろうと思ったのは、ただ歌詞を投げるだけでは何も伝わらないと思ったからなんです。“FUNNY TATTOO SEAL”という曲は「可愛い」と言われることに対しての怒りについて歌ったフェミニズム要素が強い楽曲なんですけど、腹を立てて歌詞にして歌っているだけじゃ何も伝わらなかったんですよ。自分自身が自分と向き合って作品を作ったのなら、さらにその作品を伝えていくという作業を人任せにせず、自分の言葉でやっていく必要がある。そう思い、MCでしっかり楽曲について話していくことをし続けた結果、今では音楽を信じられるようになってきたなと思っています。

「ん・フェニ」という名前の由来願いも性別も込めない記号として

ーん・フェニという名前にはどのような想いが込められているのでしょうか?

ん・フェニ:名前って親とかが願いを込めてつけるけど、それが呪いになったりすることもあるという意見を聞いたことがあって。私は自分の名前に対してそうは思ってはいないけど、女性名、男性名と捉えられる名義は嫌だったんです。名前という形式に対して懐疑的に思い始めていて、願いも性別も込めたくないと思い、無意味な記号として「ん・フェニ」と名付けました。

同時に、私のことを想ってくれている人ほど、ジェンダー代名詞をどう使っていいか、名前をどう呼んだらいいか聞いてくれたりするので、人と関わるうえで私の名前や性のあり方について触れられることは避けては通れないんだと意識させられることも多いんです。この人になら「フェニちゃん」と呼ばれて嬉しいと感じることもあるけど、どの人から呼ばれても嬉しいというわけではありません。でも、「これが嫌だ!」と言っているだけでは孤独なままで何もできない。人と人同士の話なので、結局コミュニケーションが一番大事だと今は感じています。

ーその人とどのようなコミュニケーションをとっていて、どのような関係性を築いているかによって、呼ばれ方や眼差され方の心地良さは変化しますよね。相手によるものなので、一概に「こうしてほしい」という答えのようなものを提示することはできないかもしれませんね。

ん・フェニ:そうなんです。だから、今私が話したことも、2025年8月時点での世間の価値観と私の勉強度合いで捻り出したものであって、これは白黒つかない流動的なものだということを前提に聞いてくれると嬉しいです。

ー流動的であることは、ん・フェニさんの楽曲やミュージックビデオ、Instagramで公開しているビジュアル作品を見ていても感じられます。多面的な自分や世界が存在しているなと感じていました。

ん・フェニ:スタッフもおらず一人で活動していた時期は、それまでの活動がフェミニンな印象を受けるものばかりだったので、男っぽくしようと努めていました。ミニスカートやフリフリのものを着ないと決め、「可愛い」と言われないようなイメージを作って。本当はフリフリしたものが好きだけど、「フリフリしたものが好きな子」というふうには見られたくないという矛盾を抱えていて苦しかったんです。楽曲に関しても、始めたてということもあり、ジャンルがバラバラでした。

その後、レーベルに所属してからは、人気になりたいという思いから「どうやったら数字が伸びますか?」と経験豊富なスタッフさんに聞いて、意見を取り入れていました。一度やってみて、自分の音楽というものを模索したかったんですよね。なので、当時は”MAKE”や”NO ONE”のような、キャッチーでアップテンポな曲を意識して作っていました。ただ、それによってスランプになったり、煮え切らないこともあって。そうした過去があったからこそ、今は自分の世界観を持ち、意見も強く言えるようになって、ん・フェニとしてやりたい音楽活動というものが掴めてきています。そう考えると、時期によって自分が何を表現したいのか、模索したいのかは変化していっているなと思います。

キラキラしているだけのエンタメは嫌い。届けたいのは、多面的でリアルな人の姿

ー現在のん・フェニさんの活動だけを切り取っても、楽曲とビジュアル表現におもしろいギャップを感じます。楽曲だけを切り取ると、日常のなかで煮え切らない感情や、肯定しきれない感情に寄り添っている現実的な姿を感じるのですが、Instagramでビジュアル表現を見ると、人間離れをした妖精のような非現実的な姿が印象的で、「今」という時間だけでも多面的な姿があるなと思いました。

ん・フェニ:前までは自分が好きなスタイルとは違うものを選ぶこともあったんですが、今では可愛いものやおしゃれが好きな自分を取り戻しました。曲を作る時、おこがましいと感じながらも、人にこうであってほしいという思いが歌詞に出てくることが多くて。“SPARK SPARK”という曲でも「本当の君を殺すなよ!」と強く歌っていたりするんです。最近気づいたんですけど、歌詞が真面目すぎるんですよね(笑)。でも、そこには「キラキラした部分だけを見せているエンタメが嫌い」という私の思いが現れているんだと思います。多くのものが嘘で作られているのに、それを嘘だと分からない人たちが受け取るには不適切な見せ方をしているものばかりだと感じていて。どうしてもスポットライトを浴びている人はキラキラして見えてしまうと思うけど、私だって痛みを味わっているし、泥水啜ってますから! ということを歌詞で伝えたいんです。

9/15(月・敬老の日)リリース予定の“ラウドおじいちゃん”MV撮影の様子

ー「人にこうあってほしい」というのは、主にどんな人に向けているのですか?

ん・フェニ:身近な人が多いです。“SPARK SPARK”の<本当の君を殺すなよ!>という一節では、本当は絵を描きたいけどお金のない生活が苦しくて、安定した職業で生きていく決断をした友人のことを書いています。もちろん、お金を稼ぐことでその子のメンタルが安定するのであれば、それは幸せなことだと思うから「やめろ」とは絶対に言わないけど、私はその子が絵を描かなくなってしまったことを寂しいと思っていて。そんな、言いたいけど言えない気持ちを歌っています。

ーそれが、ん・フェニさんにとってのコミュニケーション方法の一つでもあるのかもしれませんね。目に見えない大衆に向けてではなく、目に見えている近くにいる人のために書いている歌詞だからこそ、リスナーも身近な人を思いながら聞けるのかもしれません。

ん・フェニ:そうだと嬉しいです。大衆に向けて私が何かを言うのって、おこがましいなって思っちゃうんです。私自身が大衆から外れる側だったからこそ、校長先生の話とかを聞いていても何も響かなかったんですよね(笑)。だからこそ、特定の一人に向けて何かを伝えているのかもしれません。

みんなが優しく、平等に自由であれるために、まずは自分自身の幸せをしっかり受け止めたい

ー活動のかたちや幅も常に変化し続けていると思うのですが、今のん・フェニさんは、音楽活動を通して何を叶えたいと思っていますか?

ん・フェニ:これまで自分に力を貸してくれた人たちに恩返しをしていくために、私自身がもっと大きくなっていけたらいいなと思っています。そのために必要になってくると思っているのが、私自身が幸せをしっかりと受け止める力をつけることだと思っています。ん・フェニ以前の活動では、どんなに大きなステージに立たせていただいても、幸せを受け止める力がなくて満たされることがなかったんです。今度こそ、幸せを感じ、受け止め、溜めておけるようなかたちで活動していきたいと思っています。

いずれ影響力のある数字を持てたときには、音楽の力でチャリティのような活動もしていきたいですし、下の世代の力になりたいとも思っています。とにかくこれから音楽を始める人たちには、自信を持ってもらいたいし、折れないことの大事さを伝えていきたいです。それと、才能よりも勉強することを信じてほしいなと思います。運に任せてたらうまくいかなかったときにしんどくなってしまうけど、自分で学び行動していったことは絶対に消えたりしないので。

ー周囲から与えられた幸せや、自分で成し遂げた幸せを受け止める力をつけていくために必要だと思っていることはありますか?

ん・フェニ:生活をちゃんとすることだと思います。10代から20代前半は、忙しすぎて生活ができないスケジュールだったんです。そのなかでガムシャラにやってきたことは偉かったと思うけど、もっと自分をケアしていくことが必要だったなと思います。ルーティンを作ることって難しいかもしれないけど、自炊をしたり、お酒を抜く日を作ったり、部屋を綺麗にしたりと、普通のことをやるだけで頭がだいぶクリアになるし、タフになれる。とは言っても、私も最近自炊をできていなかったり、実行するのはなかなか難しいんですけど……意識することが大事だと思っています。

ー最後に、音楽を通してどんな自分や周囲を形成していきたいと思っていますか?

ん・フェニ:私は本来、ニコニコしていて柔らかく、優しい人でいたいと思っています。その人が、作ったり歌ったり踊ったり聞いたり……常にどんな曲に触れ合っているかで人柄は変わると思っているので、怒りもいい方向に昇華しながら、優しい自分でいられる曲をリリースしていきたいと思っています。周りに対してもそう思っていて、ファンの人含めて、みんな優しい人でいてほしいし、平等に自由であってほしいと思っています。

デジタルシングル “SPARK SPARK”

2025年7月30日(水) 配信
Words & Music by ん・フェニ
Arranged & Produced by ん・フェニ

自主企画ライブ「Strawberry Attack」

日程: 2025年9月17日(水)
時間: open 18:30 / start 19:00
会場: 下北沢THREE
チケット代: ADV ¥3,500 / DOOR ¥4,000 / U-25 ¥3,000
出演者: ん・フェニ / 穂ノ佳 (Band Set) / THE DO DO DO’s

NiEW presents 『exPoP!!!!! vol.177』

2025年9月26日(金)
会場:Spotify O-nest
時間:OPEN 18:00 / START 18:30
料金:入場無料 (must buy 2Drinks)
配信:https://www.youtube.com/@NiEWJP
出演:前髪ぱっつん少年、長瀬有花、ん・フェニ、奔走狂走局、Hammer Head Shark
■チケット予約フォーム
※ご予約の無い方は入場できない場合がございますhttps://expop.jp/tickets/177

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