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【2025年上半期振り返り・音楽編】若手ライター3人が国内外の注目作を語る座談会

2025.7.3

#MUSIC

『コーチェラ』のモヤモヤと小袋成彬の立候補

風間:フェスの話だと、今年の『コーチェラ』の配信で、クレイロ(Clairo)が見たくて待機していたんですよ。そうしたら急にバーニー・サンダースが出てきて。彼は民主党の中でも左派性が強い年配の議員ですけど、「若者の選択に未来がかかっている」と説く演説をしたんです。その後にバンドメンバーが出てきて、クレイロの今回のツアーでは毎回、ステージを始める前にワインを飲む演出があるんですよ。これに関しては『コーチェラ』だけじゃなくてアルバムのツアー全部でやっているんですけど、乾杯して飲んだ後に演奏を始めるんですね。その図が、何て言えばいいんだろうな。正直に言うと、そういうことだから民主党は負けたんじゃないのかなっていうのをすごく思ってしまって。

キムラ:いや、本当にそれは思いましたね。

バーニー・サンダース / “Bernie Sanders” by Gage Skidmore is licensed under CC BY-SA 2.0.

風間:『コーチェラ』自体が、いまフェスの価格高騰で金持ち向けのものになっていると槍玉に上げられているところで、バーニー・サンダースがそれを言い、壇上の人たちがワインで乾杯するという……。

松島:それって、逆に壁を作っていないか? という。

風間:トランプ1期目の2016年には、テイラー・スウィフトが声を上げて(プロテストが)団結するのを、良いふうに思って見ていたんです。でも、あれで盛り上がっている『コーチェラ』の図を見た時に、自分の中でけっこう変わるものがあったんですね。こういうやり方が有効だった時期はもう終わったのではないか、ポップミュージックと社会が幸せな関係でいられたのはもう過去の歴史なんじゃないのかと感じて、見ながらズーンと落ち込んでしまいました。

キムラ:『コーチェラ』では、ポスト・マローンのステージの方がよっぽどアメリカとしてリアルだったなという感じはします。小袋成彬の立候補も、ちょっとバーニー・サンダースのその印象につながりますよね。

松島:ああいう人が手を挙げてくれることに対しては、期待はもちろんありますし、話題作りではなくてしっかり向き合っているとは思うので、否定もできないですが。

風間:うーん。「アーティストや芸能人が選挙に出てみました」というのとはちょっと違っていて、だからこそ評価の難しさがありますよね。ポジティブな要素が素晴らしいのはわかるけど、選挙や政治となると、ネガティブな要素の取り除き方のほうが問われちゃうので。市議とかではなくいきなり市長選に出たのは、とても小袋成彬っぽいなと思いました。

—小袋成彬はアルバムのリリース(『Zatto』)もありましたが、そちらはどう聴きましたか?

風間:betcover!!とはまた別の昭和の解釈というのかな。リズム歌謡の歴史をもう一回辿って、リズムの多様さを呼び戻すようなアプローチは面白いし、それをイギリス経由で、いまイギリスで流行っているサウンドの匂いまで含めてやったのも面白いと思いました。ただ、そういう新しさがどこまでみんなに届いているのかな? とは思いますね。

松島:音像は素晴らしかったですね。ただ、僕がそういう音楽の素養が少ないからというのもありますけど、個人的には『Piercing』や『分離派の夏』の方が好きだとどうしても思ってしまう。あくまで自分の志向の話で、それで言えば僕は、去年のチャーリXCX『brat』とかも、総決算ではあるし良くできた作品だと思うけど、心を揺さぶられるものだとは感じられなかったんですよね。

キムラ:うんうん。やっぱりPC Music(=チャーリXCXと長く共同作業を行ってきたA.G.クックが主催するレーベル)に対して思い入れがある人たちはそう言いますよね。『コーチェラ』にもA.G.クックとチャーリXCXが出てたじゃないですか。A.G.クックは、あの頃からの自分のジャンルというものをしっかりとやったステージだったのに対して、チャーリはポップスターとして大衆から求められる要請をしっかり引き受けるようなステージで、二者のスタンスがはっきり分かれていた。それは決してネガティブなことではなく、どちらも未来にしっかり橋渡しをしていて美しいわけですが、『brat』が好事家の間で厳しい評価だというのもすごくわかります。

風間:なるほど、確かにそうですね。僕は逆にPC Musicにそこまで触れてなくて、その種の音楽にずっとあんまりハマれていなかったのが、『brat』を聴いて開花して、今年のNo Busesのアルバムで本格的にハマったんです。そこまで触れてなかった人間からすると、総決算的なものが出てくることで見えるものがとてもあって、ありがたさがあったんですよ。

松島:そうそう、別に否定する気は全くなくて、入り口としては素晴らしいアルバムだと思います。

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