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マームとジプシー藤田貴大が語る、演劇の潮目。演劇は不要不急ではなく、生きる営み

2025.4.28

#STAGE

生きる営みを不要不急だと言われたことが、いまだにすごくひっかかっている

─出演者もスタッフも怪我や病気をせず集えることって本当に奇跡みたいなことなのに、当たり前とされていたことのほうがむしろすごく脆いフィクションというか、共同幻想だったのかもしれないと話を聞きながら思いました。藤田さんは沖縄の土地の史実や記憶を扱うときなどにも、フィクションだからこそできる表現を探してきたと思うのですが、今回はドキュメンタリーの手法に近づいていくという感じですか? それとも、フィクションの枠を拡張するという感覚に近いのでしょうか。

藤田:そもそも演劇って、「リアル」という言葉のありかみたいなもののまわりでずっとウロウロしてると思っていて、『Curtain Call』でいくら生身の舞台裏を見せようとしても、舞台で上演する以上、それはリアルなのか? という問いが生まれますよね。それをわかった上で、今回は明らかに観客の人たちが知らない青柳いづみ(※)が目の前にいるのではなく、「これって青柳いづみさん本人なのかも?」ぐらいの近さでやるときがきたというか。結局どこかで嘘をつくことにはなっちゃうと思うけど、今まで描いてきた世界よりも、もうちょっと本当の自分たちの姿を見せようと頑張るみたいなことだと思います。

※マームとジプシーの作品に出演する看板俳優の一人。

─個人的にマームの舞台から受け取る魅力として、遠いと思われていたものが近くに感じる瞬間があることだと感じています。たとえば『equal』では、舞台上の一人ひとりが朝ごはんになにを食べたか、どんな献立が好きか、こまやかに語られていましたよね。個人的な描写の積み重ねがあるからこそ、その人たちが経験した事件なり戦争なりの現実に、現代の自分が引き寄せられて、結ばれていく瞬間がある。藤田さんが、一人ひとりの生を描く理由みたいなものがあれば聞きたいと思っていました。

藤田:演劇を観る人も、つくる人も劇場に来ているということは、みんなに朝がきて、朝起きたということですよね。「今日は観劇だからちょっといい服を着よう」とお客さんが思ったり、「今日は本番だからいいフルーツを楽屋に買っていくか」とスタッフが思ったりして。当たり前のことだけど、役者がぽんっと舞台に立てば演劇が始まるわけではなくて、たくさんのスタッフがいて、その日に向けた準備の先に本番があります。お客さんも含めて、本番の時間にダイアルを合わせて集まってきているわけです。そういう一人ひとりが偶然何百人も集まる演劇というのは異様な空間だし、奇跡の場でしかないんだけど、同時に、ただそれだけのことでもある。これがただの「営み」であるということを、どこかで、誰かに、忘れられているんじゃないか? と思ったんですよ。だから、「不要不急」みたいな言葉が軽く──僕はすごく軽く言われたと思っているんですけど、出てくる。

マームとジプシー『equal』(撮影:2024年2月/細野晋司)

─特別なことに対してではなく、日々の営みを否定されたという感覚でしょうか。

藤田:「非常時には最低限の衣食住を優先する」という意味だとは思うのですが、演劇というものに関わる自分たちの営みが、最低限の衣食住から外れたことがまずショックでしたね。僕自身が演劇がなかったらたぶん生きていけなかったタイプだったこともあると思います。演劇以外で稼げないからという意味ではなく、幼少期、学校がつらくても演劇があったから人との距離がつかめるようになったり、食べて寝るだけじゃない生活を得られたりしたので。そういう生きる営みを不要不急だと言われたみたいで、いまだにすごくひっかかっています。

たとえば料理をする人たちだって、今晩のディナーに向けて、今みたいに明るい時間帯から鶏を仕込んだりするわけじゃないですか。それと一緒で、僕らも日々、仕込んでいるわけで。演劇や表現って、相変わらずなんだか特殊で、真面目な仕事だと思われない節があるような気がします。「不真面目にやったこと、1回もないけどな」とも思うし、0秒で舞台に立っているわけじゃない。『Curtain Call』はたぶん、そこをやりたいんですよね。青柳いづみだって、いつもすんごい地道にストレッチしている。僕は自分のことも作品に書くから、表現やエンターテインメントというのは消費されていくのが仕事だと思っている部分もあるけれど、マームとジプシーに関わってくれている俳優やスタッフに、自分自身を切り売りしているような感覚になってほしくないんですよね。誰もが一つの身体しかもっていない生身の人間だということを、観ている人にわかってほしいというか。それが、さっき質問してくれたような、「一人ひとり性」みたいなものを大事にしたい気持ちにつながっているんじゃないかなと思います。

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