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切実な愛の暴投を見届けよ!
ジャッキーの筋肉の血管が蠢くのを、クロースアップで接写するあからさまで俗物的なカット。繰り返される暴力と銃声。ルーの父、ルー・シニア(エド・ハリス)の独特のヘアスタイルとカブトムシを食らう衝撃のシーン。ホラー、スリラー、コメディの要素に脚色された物語の中に、一貫してルーとジャッキーの愛がある。
2人の愛は衝撃を伴うもので、そこには複雑なパワーバランスが存在している――このように前述したが、それでもなぜ彼女たちはこれほどまでに強烈に思い合っているように見えるのか。それは、「相手と離れたくない」というシンプルな感情が2人を貫いているからだろう。
映画前半、ジャッキーが町にやってきた初日にルーの義兄JJ(デイヴ・フランコ)とジャッキーがセックスしていたことが発覚し、車内での口論の末、ジャッキーは車を降りてしまう。レズビアンだと自称していた相手が自分に嘘をついたかもしれず、しかも憎い義兄と関係を持っていたなんて、ルーにとっては屈辱でしかない。しかし、ローズ・グラス監督はここでは2人を離別させず、ジャッキーを車内へ引き返させるという選択をした。筆者はこの時、この作品は「2人が離れない(離れてしまっても必ず戻ってくる)」映画ではないかと予感したのだが、その予想はあながち間違っていなかったように思う。ジャッキーはルーがボディビル大会を見にいくことができないと告げると激昂するし、ルーがジャッキーの殺人の隠蔽工作をするのは、ジャッキーが捕まって自分から離れていくのを恐れるからだ。
彼女たちが取る行動は倫理的には犯罪でしかなく、暴投の連続だ。しかしその暴投は、他の何よりも切実な愛に見える。呆気にとられるラストシーンとともに、私たちは問いを突きつけられるだろう――この暴力的でグロテスクな愛を、拒絶すべきか、それとも羨望すべきか。ぜひ、そんな2人の愛の結末を劇場で見届けてほしい。
『愛はステロイド』

2025年8月29日(金)全国ロードショー
監督・脚本:ローズ・グラス(『セイント・モード/狂信』)
共同脚本:ヴェロニカ・トフィウスカキャスト
出演:クリステン・スチュワート(『スペンサーダイアナの決意』)、ケイティ・オブライアン(『ミッション︓インポッシブル/ファイナル・レコニング』)、エド・ハリス(『トップガンマーヴェリック』)、ジェナ・マローン(『メッセンジャー』)
原題:LOVE LIES BLEEDING
配給:ハピネットファントム・スタジオ
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