お笑いコンビ・ジャルジャルの福徳秀介が2020年に出版した小説を原作に、映画監督の大九明子が脚本と監督を勤めた映画『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』が観客を熱狂の渦に巻き込んでいる。河合優実、萩原利久、伊東蒼の名演に、公開直後からSNSで熱量の高い感想が飛び交う中、「今年の暫定ナンバーワン」と投稿し、熱い賛辞を送っていた映画監督の宮岡太郎が本作について語る。
※本記事には映画の内容に関する記述が含まれます。あらかじめご了承下さい。
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青春ラブストーリーかと思いきや。衝撃の1作
凄いものを観た。この映画は何なんだろう。うまく言語化ができない。一言言えるのは、とにかくエモい。エモすぎるということである。

『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』は、ポスターだけを見ると爽やか系の青春ラブストーリーのようである。しかしその実は、人間のダークな部分をも、えげつなく描き切った最高濃度の人間ドラマであった。

中盤になって喪失や死という要素が前面に押し出されて以降、単なるひねくれ者の恋愛ドラマだと思って観ていた観客は度肝を抜かれはじめる。一体この映画はどこに向かっているのか? いよいよ全く目が離せなくなってゆく。

若手俳優たちのキャリアハイともいえる圧倒的名演
メインとなる登場人物を演じた萩原利久、河合優実、伊東蒼の存在感がとにかく素晴らしい。それぞれが映画でしかあり得ない壮絶な長台詞を完璧に演じきり、キャリアハイともいえる最高レベルの芝居を見せつけてくる。その場にいるだけで空気を変えてしまうその圧倒的な実在感に痺れっぱなし。やはり力のある俳優が、その演技力を120%出し切れる映画というのは最高である。唯一のベテラン枠である古田新太もまたいいのだ。人間って哀しくて可笑しい。そんなことを感じさせてくれる、活き活きとした名場面の数々は必見である。

観客を揺さぶる大九明子の新たな到達点
監督の大九明子は、既に映画『勝手にふるえてろ』や『私をくいとめて』というアクの強い恋愛系人間ドラマの快作を生み出し、映画界隈ではしっかり認知されている名監督なわけだが、この作品でさらにその名声を高めたといえる。全編にわたる、これでもかという映像表現の数々、活き活きとした芝居演出から繰り出される本作の持つパワーは圧倒的で、そのつるべ落としの如きアイディアの量を観ていると、一体構想にどのくらいの時間をかけたのだろうという壮絶な狂気すら感じる。とにかく「観客を安全地帯に置かない」という意識が凄いのである。

不意に叫び出すキャラクター、突然繰り出されるズームインや、空間を飛び越えたトリッキーな映像……こうしたある種びっくり箱のような演出は、観客に本作を絶対に見逃すな! この映画はお前の一部だ! と訴えかけてくるようで末恐ろしい。

最後の1秒まで目を離すことができない映画体験
というわけで、この作品はラブストーリーと見せかけて、常にサスペンスやシリアスを内包したエモ系人間ドラマなのである……とまとめたいところなのだが、所々、とんでもない力技によって強引にラブストーリーに引き戻してくるものだから凄い。最後の1カット、最後の1秒まで全身の感覚で観ることが求められる大傑作であり、間違いなく本年必見の1本だと思う。
『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』

原作:福徳秀介『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』(小学館刊)
監督・脚本:大九明子
出演:萩原利久、河合優実、伊東蒼、黒崎煌代、安齋肇、浅香航大、松本穂香、古田 新太
製作:吉本興業 NTTドコモ・スタジオ&ライブ 日活 ザフール プロジェクトドーン
製作幹事:吉本興業 制作プロダクション:ザフール 配給:日活
©️2025「今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は」製作委員会
公式サイト:https://kyosora-movie.jp/
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