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音としての言葉が国境を超えて、自然な響きを生み出した
─この曲も、スウェーデン出身のシンガーであるベンジャミンが日本語で歌っています。
小瀬村:最初に「一緒にやらないか」と連絡を取って、デモを送ったんです。歌詞は日本語だったので、「無理に日本語でなくても、スウェーデン語でも英語でも大丈夫だよ」と伝えていたのですが、「この日本語の響きがとても美しいから、一度このまま歌ってみたい」と返ってきて。結果として、全く違和感がなかったし、とても良い仕上がりになったと思います。本人は「日本語の発音は大丈夫かな?」と少し心配していたんですけど、僕からしても全然問題なかったし、「すごく素敵だよ」と伝えました。
その後も何度かデモをやりとりして、キーを変えるなど、彼の声が一番綺麗に響くポイントを一緒に探っていきました。最終的には、ハイトーンでオクターブ上をユニゾンで歌ってくれたのですが、それが本当に綺麗に決まって、楽曲全体にもすごく良いスケール感になったと思います。
─ベンジャミンが日本語を「音」として捉え、歌詞が持つ意味やメッセージ性よりも「響き」を大切にしながら歌っているからこそ、このストレートなメッセージが聴き手にも押し付けがましくなくスッと入ってくる気がします。
小瀬村:ああ、なるほど。それは確かにそうかもしれない。ちょっと恥ずかしいくらいシンプルな歌詞なので(笑)、最初は「これでいいのかな……」と迷った部分もあったんですけど、ベンジャミンが歌ってくれたことで、おっしゃるように自然と耳に入ってくるようになりました。「ああ、これで良かったんだ」と思えたのは、彼の歌い方によるところも大きいと思います。

―今作における「言葉」や「声」という要素は、小瀬村さんにとってどんな意味を持っていたのでしょうか。
小瀬村:やっぱり「外に伝える」という意味で、人間の「声」はものすごく大きな力を持っているんだなと、あらためて感じました。しかも「声」は、本当に唯一無二のものだと。誰が発音するか、声質、発声の仕方、ニュアンス、言葉の選び方──すべてがその人にしか出せないもので、それが音楽にとって決定的な意味を持つことがある。
今回の楽曲も、「この声でなければ成立しなかった」と思えるものばかりでした。それぞれの声がぴたっとハマって、まるでパズルの最後のピースが収まったような感覚がありましたね。一人の人間が持つ想像力には限界があるけれど、誰かと一緒に作ることで、それを超えるようなものが生まれる瞬間がある。そんな体験ができたことは、音楽家としてすごく幸運だったと思います。
ー最初におっしゃっていた、コロナ禍における「分断」に対し音楽を通してできることとは何か、アルバムを作る過程で実感されたことはありましたか?
小瀬村:正直なところ、「このアルバムで世界を変えたい」とまでは思っていないんです。ただ、自分がこれまでに経験してきたことや、音楽を通して積み重ねてきたこと、様々なバックグランドを持つ人たちとのやりとりや、彼らと共鳴しながら何かを一緒に作り上げる体験には大きな意味があると感じています。
自分の考えていることが、音楽を通して100パーセント伝わるかといえば、それは難しいかもしれません。でも音楽や言葉、使う楽器や表現スタイルなど様々な要素を通して、「こんな音楽も存在するんだ」と思ってもらえたら嬉しい。それにより、聴いてくれた人が少しでも前向きな気持ちになったり、「自分も何か新しいことに挑戦してみよう」「そんなのあり? って思ってたけど、少しだけはみ出してみてもいいかも」と思えるきっかけになったりしたら、それだけで十分に意味があると思っていますね。

小瀬村晶『MIRAI』

2025.6.27 リリース Decca Records
LP: UCJY-9003 ¥4,950(tax in) / 配信
- SECAI
- Atlas (feat. Tom Adams)
- Always You (feat. Mr Hudson)
- Lore
- Autumn Moon (feat. Miyuki Hatakeyama)
- The Walking Man (feat. Baths)
- Under The Starry Sky
- Underflow (feat. Saro)
- MIRAI (feat. Benjamin Gustafsson)
- Ongaku (feat. Devendra Banhart)
参加ゲスト:デヴェンドラ・バンハート、畠山美由紀、トム・アダムス、ミスター・ハドソン、ベンジャミン・グスタフソン、サロ、バス
プロデュース:小瀬村晶
マスタリング: Zino Mikorey