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音楽家・小瀬村晶が、初めて「伝えたい」と思ったこと。子どもたちや未来のために

2025.7.16

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コロナ禍を経て、言葉や音楽がもたらす「つながりの力」をあらためて見つめ直したという作曲家 / ピアニストの小瀬村晶。世界各地のボーカリストたちとリモートでやりとりを重ね、「声」を主軸に据えて生まれた最新作『MIRAI』は、彼にとって初のボーカルプロジェクトとなった。

参加アーティストには、デヴェンドラ・バンハート、畠山美由紀、ベンジャミン・グスタフソンら多様なバックグラウンドをもつ7名が名を連ね、アジアの伝統楽器や民謡、ポストクラシカル、ポストロック、エレクトロニカといった多様な音楽性が、多言語の歌声と交わりながら描き出すのは、いまを生きる人々へ向けた静かな希望の風景である。

デッカ・レコードからリリースされた1stアルバム『SEASONS』(2023)以来、2年ぶりとなる本作は、パンデミックによって浮き彫りになった「分断」の感覚と向き合いながら、「人と人が共鳴し合うことの意味」を問い直すようにして制作された。音楽は、何を伝えることができるのか。声は、なぜ人の心を動かすのか。改めて「歌」という表現と真正面から向き合った過程と思索を、たっぷり語ってもらった。

「自分たちの未来は自分たちの手に委ねられているんだという実感が湧いてきたんです」

─アルバム『MIRAI』のコメントには、「これからの時代を生きていく人々に向けて、いま自分が伝えられること、未来への希望を音楽で描いた作品です」とありました。そうしたテーマと呼応するように、ジャケットには子どもが写った印象的な写真が使われていますが、写っているお二人はどなたですか?

小瀬村:僕の子どもと、長崎県・五島列島の島でお世話になった方です。写真家の阿部裕介さんが撮ってくれました。阿部さんとは以前から親しくさせてもらっていて、前作『SEASONS』でもインナースリーブの写真撮影をお願いしました。今回の写真は、阿部さんが現地のご友人と営んでいる、とても素敵な一棟貸しの宿に、阿部さんと家族ぐるみで滞在したことがあったんです。これは、そのときに撮った写真の1枚で、アルバムのジャケット撮影のために行った旅行ではなかったのですが、とても気に入ったので使わせてもらいました。

─今作『MIRAI』の構想は5年前からあったとお聞きしました。当時、お子さんはおいくつだったのですか?

小瀬村:5歳でした。ちょうど友達との関わりや幼稚園での生活を通して、少しずつ社会と触れていく時期だったんですよね。にもかかわらずコロナ禍になり、毎日マスクをして登園せざるを得なくなった。「これでちゃんとコミュニケーションが取れているのかな」と、親として考えさせられることも多かったんです。表情って、とても大事じゃないですか。

小瀬村晶(こせむら あきら)
1985年6月6日東京生まれ。2007年にソロアルバム『It’s On Everything』を豪レーベルより発表後、自身のレーベル・Schole Recordsを設立。以降、ソロアルバムをコンスタントに発表しながら、映画やテレビドラマ、ゲーム、舞台、CM 音楽の分野で活躍。映画『ラーゲリより愛を込めて』『少年と犬』『朝が来る』、海外ドラマ『Love Is__ 』、石田スイ総合プロデュースによるNintendo Switchゲーム『ジャックジャンヌ』などの音楽を手掛ける。

─そうですね。特に幼少期、相手の表情を読み取る機会がコロナ禍で少なくなっていたことは、僕も当時気になっていました。

小瀬村:そうなんですよ。当時はいろいろと思うところがありました。世界中で、対立や分断が広がっていたこともその一つです。特にアメリカでは、アジア人への差別が目に見える形で起こっていましたよね。実際に知り合いのミュージシャンたちも、「危ないから日本に帰る」と話していましたし。

そうした現実を目の当たりにして、「このままで大丈夫なのか?」という不安を強く抱くようになったんです。子どもがいるからこそ、未来に対して責任を持たなければという感覚も芽生えましたし。これまでの自分は、たとえば世界中で起きている戦争や、目の前の社会問題に対してすら対岸の火事のように感じていたけど、決してそうではない。自分たちの未来は自分たちの手に委ねられているんだという実感が湧いてきたんです。

─子育てを通して、社会に対するコミットメントの重要性に気づいたわけですね。

小瀬村:はい。そうした気づきを経て、「これからの時代を生きる人たちに、もっと希望や明るさを届けたい」「音楽を、内向きなものとして向き合うだけではなく、前を向く力にしたい」という思いも強くなっていきました。その頃から「アジア人の作曲家」として、自分の立ち位置や社会との関わりを見つめ直しながら、外の世界に向けた作品をつくりたいと考えるようになったんです。

海外レーベルとのやり取りで見つめ直した、現代の「日本らしさ」

─前作『SEASONS』はピアノを中心にした内省的な作品でしたが、今作はさまざまな「音」が加わったことで、多様な文化が混ざり合っている印象を受けました。中でも、最も大きな違いは「声=ボーカル」が入っていることですね。

小瀬村:2020年の夏にデッカ・レコードのA&Rから連絡をいただいてこのプロジェクトがスタートしたんですけど、会話の中で、「デッカに所属するアーティストたちは、それぞれの土地に根ざした音楽を作っていて、そうしたローカルな個性こそが、グローバルに発信する価値を持っている」と言われたんです。

その言葉を受け、最初に生まれたのが『SEASONS』です。日本の四季や自分の記憶にある風景、すでに失われつつある感覚へのまなざしをピアノだけで表現した、かなり内向きな作品でした。一方で次に作る作品は、より外に向けたものにしたいと考えていたんです。

─なるほど。国籍や性別、世代の違うミュージシャンが多数参加し、古今東西に楽器を用いていながらなお「日本らしさ」が漂ってくる。デッカ・レコードのA&Rが言うところの「ローカルな個性」を、強く感じる仕上がりになっているのは、そうした経緯があったからですね。

小瀬村:まさに。僕は1985年生まれで今年40歳になるのですが、世代的に欧米文化の影響を強く受けて育ちました。戦後、日本には欧米の文化が一気に流入し、それが日本的なものと混ざり合って現在の文化が形成されています。僕たちの世代にとってそれが「当たり前」でしたし、1980〜1990年代の映画音楽や洋楽からの影響は特に大きかった。外から見た「伝統的な日本」とは少し違うかもしれないけど、僕らにとって「日本らしさ」とは、すでにいろんなものが混ざり合った状態なんです。

その一方で、アジアや日本の伝統楽器に対しても、どこかDNAレベルで親しみを感じている自分もいます。たとえばお正月にしか耳にしないような音でも、聴くと心が落ち着く。そういう感覚って、多くの日本人が共有していると思いませんか?

─確かにそうですね。

小瀬村:和楽器との関わりが生まれたのは、2017年ごろでした。漫画家の石田スイ先生と『ジャックジャンヌ』というゲームを制作しているときに「和楽器を取り入れたら面白いかも」とアイデアをもらって、その過程で和楽器の奥深さや魅力を改めて実感したんです。そうした背景もあって、今回は改めて日本の伝統的な音や文化に光を当てたいと考え、琴や尺八、三味線、笙、のほか、インドのディルルバや、中国の二胡なども取り入れました。

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