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奪われ、死にかけた言語の再起ーーアイルランド語ルネサンスの日は近い
また、KNEECAPとの関連を示す明確なデータはないが、アイルランド語ルネサンスも現実味を帯びてきている。我々日本人の多くが退屈と感じていた古文漢文の授業同様、「アイルランド語の授業なんて誰も好きじゃなかった」とYouTubeの街頭インタビューでベルファスト市民が答えている一方で、今ダブリンでは過去100年間で最も多くの人がアイルランド語を話しているという記事がある。2022年になってようやくアイルランド語が北アイルランドでも正式な公用語として認められ、法廷でも使えるようになった。2024年には初のカトリック系統一派の首相が北アイルランドに誕生した。TikTokでは、アイルランド語を意味する「#Gaeilge」が1億2000万回以上の再生数を記録。言語学習ツール「Duolingo」では、2018年時点でアイルランド語学習者が420万人で、ネイティブスピーカーの42倍。加えて、アイルランド語学校の数が劇的に増加しているそうだ。4万人以上がアイルランド語の小学校に通い、1万2千人以上がアイルランド語のみで学ぶセカンダリースクールに通っている。記事によってはKNEECAPのほかに、クレア・キーガン原作の映画『コット、はじまりの夏』やアイルランド出身の俳優陣(ポール・メスカル、ニコラ・コクラン、シアーシャ・ローナン、バリー・キオガン)も引き合いに出し、「今若者にとってアイルランド語を学ぶのがクール」と締め括っている。
「彼らがアイルランド語の復権に貢献しているのは間違いない」と私に念を押すのは、レコードショップSpindizzy Recordsで働くJasperだ。「昨日も入荷したばかりのKNEECAPの7インチが即完した。アイリッシュとか観光客とか、年齢さえ関係なく彼らは幅広く人気があるね」。

私がシニカルに「でも彼らがマーケティング戦略の一環としてアイルランド語を使ってるという可能性は?」と聞くと、彼はこう言った。「たとえそれがマーケティングの一つであったとしても、しないよりはマシだ。パレスチナへの連帯と同様にね。もっと言えば、Fontaines D.C.もPebbledashもアイルランド語を使って曲を作ってるし、僕が思うに、ただそうすべき時が来たってだけなんだと思う。アイルランド語なんて学校で習ったきりで、昔は話せてたけど大人になったら忘れてしまう人がほとんどのなかで、彼らのおかげで死にかけの言語を学び直そうと思える。僕もその一人だし、僕の場合は昔の──かつてエンヤも所属してたこともある──Clannadってバンドを聴くようになった。音楽的な方向性は僕のバンドとは違うけど、政治的スタンスにはミュージシャンとしてすごくリスペクトしてるよ」。