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世界を揺るがすKNEECAPは民族ファーストの過激派か、新世代ポップアイコンか?

2025.8.2

#MOVIE

アイリッシュネスの風刺とカリカチュア

戦略家の彼らは、アイリッシュのステレオタイプをサービス的に織り混ぜ、ツイストさせるのもうまい。劇中では昔ながらのアイリッシュ──カトリック教会に通う信者──の造形をスクリーンで早々に見せ、海の外にいる観客にエキゾチックなアイルランド映画がはじまった高揚感を浴びせる。プロテスタントとカトリックの恋物語はいつだって悲劇だ。DJプロヴィが被るバラクラバ(目出し帽)はIRAを想起させるアイテムとしてアイルランドでは定番だし、セカンドアルバム『Fine Art』のアートワークに使うのはもちろん、映画でもキーアイテムとして登場する。それにコカインの首都とも称されるロンドンから運ばれてくるドラッグは、アイルランド映画やテレビシリーズにおいて度々ユースカルチャーのモチーフの一つとして扱われる。

映画『KNEECAP/ニーキャップ』場面写真

映画『KNEECAP/ニーキャップ』はセンシティブな人には向かない辛辣なユーモアと風刺が効いた成長物語である。2024年のサンダンス映画祭で史上初のアイルランド語映画として出品されたこの作品は、監督のリッチ・ペピアットもアイリッシュ。日本の公式サイトでは本作を「アイルランド版トレインスポッティング」と評しているが、地元紙アイリッシュ・タイムズはこの映画を『ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!』になぞらえている。劇中で「アビー・ロード?」ととぼけるモグリーだが、その不必要なセリフこそリファレンスに対する最低限必要な愛である(ちなみに、映画に出演しているマイケル・ファスベンダーとともに、The Beatlesのアルバムカバーをマッシュアップした写真をソーシャルメディアにポストしている)。ビートルズは逃げ、KNEECAPも逃げる。とりわけ、ビートルズがテレビのリハーサルを抜け出し外階段から駆け降りるショットは、モグリーが会場を抜け出し警察から逃げるシーンと少し重なる。荒唐無稽な彼らが、ひょっとして21世紀のビートルズかもしれないと思わせてくれる。

映画『KNEECAP/ニーキャップ』場面写真

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