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デビュー作の反響に戸惑いながら、新たな可能性を形にした『縫層』

―デビューEPから4か月後、シングル『散瞳 / 花曇』を発表します。
君島:“散瞳”は『午後の反射光』が出てすぐ、ただ音楽が楽しいってテンションで作って、“花曇”はこねくり回したと思います。『午後の反射光』はあの時期にああなるべくしてなったもので、「自分の名刺になるようなものを」と思って作った作品だったんです。
それが思ったより聴いてもらえたショックで、「聴いてくれた人たちに向けて、何か新しいもの」って視点が出てきて、自分の中の空気がガラッと変わって。それでもともとの感覚を取りこぼしそうになって、次の『縫層』(2021年)も外圧というか、作ろうとして作ることのストレスとかジレンマが正直めっちゃありました。
―『縫層』は新しい可能性がいくつも出てきた作品で、1曲目の“旅”では初めてエレピを弾いています。
君島:そうですね、ギターは弾いてない。これは『午後の反射光』より前のめっちゃ昔の曲で。自分のマインドセットを初心に戻したくて、1曲目に配置した感じです。後半に入れたノイズは声ですね。声を歪ませて加工したやつ。
―このEPの表題曲は『午後の反射光』と共通のサウンドシグネチャーがありながら、複雑な拍子感覚や複雑なキメのような要素も表出してきています。
君島:僕、あまり変拍子が気にならないんですよね。7拍子が普通にインストールされている感覚があって、キメのセクションとかもギターを弾いてたら勝手にこうなった感じです。このときは、『午後の反射光』で思ったより自分のやりたいことができてしまったことのプレッシャーがあって、前作を超えなきゃって気持ちで作っていました。
―“笑止”みたいなエアー感がほとんどない曲は今でこそいくつかありますけど、その起点はここだったのかなと思います。
君島:そうですね。“笑止”は本当に人と初めて作った曲だったんで、当時は正直、抵抗がありました。背伸びをしていろんなことをしてみようってEPだなと思います。自分の体に合ってない動きを、(西田)修大とか、(石若)駿さんの力を借りて、やろうって感じでした。
―“傘の中の手”はLINE CUBEでもやっていましたが、どんな位置づけの曲なんですか? リズムも不思議な弾む感じがあります。
君島:それはドラムを叩いて録ってみたら、自然にできました。8分の6拍子だけど、歌は付点で伸ばしているから歌だけ聴くと4拍子的で。この曲はサビで直接的に言いたいこと言えたし、「こういう歌詞、書けるんだ」って思いました。サウンドは開けていて明るい曲なんだけど、ハーモニー感があまりポップスっぽくないもの、ちょっとブラジリアンなものを作ろうって気持ちもありました。
痩せた魔法と笑いたがるあなたと手
君島大空“傘の中の手”より
三つ編んでご覧、扉棚引く
ね!眠りの中で歌ってたあの日
「寸でのところで飲めば嘘だよ」
君をずっと待っていたようだ
―“笑止”でメタル的なもの、“傘の中の手”でブラジリアン的なものという『午後の反射光』には表出してないサウンドスタイルが出てきています。
君島:きっかけの1枚って感じですね。多分、自家発電のやり方に迷っていて、今までのやり方で続けると、新しいサウンドスタイルは取り入れづらくなるかもしれないって悩んでたと思います。もっと気を抜いて作りたかったけど、過去の自分の影みたいなものに邪魔されながら、友達の手を借りて作れたものです。