INDEX
映画を見るようにあなたの人生を知る
レンタルショップのバックヤードで情緒不安定に陥るシーン等、ローレンスというキャラクターにはチャンドラー・レヴァック監督の自伝的なエピソードが反映されているという。女性の映画作家が少年に自己投影をさせている点は非常に興味深い。『I Like Movies アイ・ライク・ムービーズ』においてローレンスの内面に「介入」できるのは女性たちに他ならないからだ。しかもここではあらゆるロマンスの要素が排除されている。女性たちはローレンスを助けるのではなく、ただ近くにいて少年を見放さないことを選ぶ。ローレンスの人生初めてのアルバイト先であるレンタルショップの上司アラナ(ロミーナ・ドゥーゴ)とのやりとりは、ローレンスの不遜さをスクリーンに暴くと同時に、少年の傷つきやすさや優しさを思いがけない形で浮かび上がらせる。マットがスタッフとして連れてきた同級生ローレン(エデン・キューピッド)は、ローレンスのやや差別的な意識を暴くと同時に、マットという親友の大切さを無言の態度で教えているように思える。また、バックヤードに引きこもって発作を起こしたローレンスを、母親がドア一枚を隔てて看病するシーンは感動的だ。きっとこの母親は、どんなことがあってもローレンスのことを見捨てたりはしない。

チャンドラー・レヴァック監督は、ローレンスというクソ野郎がクソ野郎であることを自覚するまでの道程を描いている。ではローレンスはどうやって自分の欠点を自覚していくのか? 本作はとてもユニークな方法をとっている。たとえばレンタルショップの棚卸のシーン。やけにテンションが上がっているアラナはパフォーマンスのように踊りはじめる。このときアラナに視線を向けるローレンスの柔らかい表情が印象的だ。それは大好きな映画を見ているときの無邪気な表情と似ている。俳優になる夢に挫折した過去を話すアラナ。アラナの独白シーンを、ローレンスは舞台上のパフォーマンスを見る観客のように床に座り込んで見つめる。ローレンスはスクリーンに上映される名作を見るように、アラナの「傷だらけのパフォーマンス=人生」の悲しみを感知していく。これは映画に魅せられた少年ローレンスがほとんど無意識に編み出した、他人の人生を理解するための唯一の方法といえる。
