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聴覚障がいを繊細に描いた意欲作『私たちの話し方』
『大阪アジアン映画祭』では『ラスト・ダンス』以外にも最新の香港映画がいくつも上映されたが、もうひとつ特に注目したいのが『私たちの話し方』だ。アダム・ウォン監督がこの映画祭に登場するのは5回目、監督作品の上映はこれが4本目。惜しくもグランプリは逃したが、優れた作品に与えられるスペシャル・メンションを授与された。
本作が描き出すのは、聴覚障がいのある若者たちの青春物語だ。手話ではなく口語教育が推奨されていた歴史を背景に、人工内耳テクノロジーのアンバサダーとして口語を話すソフィーと、手話を自らの言語として誇りに思うチーソン、口語と手話の両方に長けたアランの世界がゆるやかに重なり、溶け合っていく。

ひとことに「聴覚障がい」とはいうものの、それぞれに障がいの内容は異なり、生きてきた環境や置かれている状況も違う。繊細であいまいなグラデーションを、本作は3人の登場人物を通して鮮やかに表現した。なぜ口語を使うのか、なぜ手話にこだわるのか、なぜ両者の間に分断があるのか。なぜ、彼らの夢や希望に理不尽な障壁が立ちはだかるのか。その背景に、当事者ではなく健常者の論理が常に横たわっていることを暴く作品でもある。
ウォン監督によると、創作の出発点はとある短編映画の脚本に出会ったことだった。「海の中で手話を使う物語でした。そのとき、耳のきこえない方は健常者よりも海中でのコミュニケーションが有利だと知ったんです。彼ら・彼女ら特有の文化と価値観があることを学び、ぜひ映画にしたいと思いました」
