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HAIM『I quit』 ラフでパワフル。多彩な音楽性を取り込んだ5年ぶり新譜をレビュー

2025.6.20

#MUSIC

地域・年代・ジャンルをまたぐ多彩なサウンド

寄り道して、他のシングルのアートワークもひとつ見ておくと、いい人ぶっていながら実は自分を見てくれてはいないパートナーに別れを突きつける曲“Down to be wrong”のアートワークは「スカーレット・ヨハンソンと抱き合いながら携帯電話を見ているジャレッド・レト」──うーん、なかなか辛辣な風刺だ。ぜひ読者にはその他のシングルのアートワークと楽曲のリンクも考察してみてほしい。

話を戻そう。アルバムのプロデュースはダニエルに加え、過去作から続投のロスタム・バトマングリとバディ・ロス。なお、同じく過去作でプロデュースにあたっていたアリエル・リヒトシェイドはダニエルと公私共にパートナーでもあったが、現在は別れていると語られており、今回のアルバムからは外れている(ただしアルバムの中で初期に制作されたという“Relationships”にはリヒトシェイドも参加)。直近のインタビューでは姉妹全員が制作期間中に「パートナーなし」の生活を謳歌したとも語られ、本作には彼女達がそこから得た実感も反映されているはず。実際、本人達にとって「これまでで一番、自分たちが望んでいたサウンドに近づけた」作品なのだそうだ。

そして肝心のそのサウンドはというと、力強く明快で、そして誤解を恐れずに言うならば、ロック的だ。いや無論、そのアレンジは決してシンプルなロックに留まらず、カントリーやブルーズ、正統派なローレルキャニオンフォークや、Fleetwood Mac直系のウエストコーストなギターサウンドと美麗なコーラス、さらにはディスコビートに2ステップ、はたまたニューメタルにまで接近……と、その音楽的なエッセンスは相変わらず多彩。ポップパンクとモータウンがごっちゃになったような“Take be back”、ラグタイムにブギーなグルーヴを忍ばせてローファイに仕上げた“Try to feel my pain”など、地域・年代・ジャンルをまたぎいいとこ取りをしながらも、曲構成やトラックの重ね方を巧みに操って、シームレスに聴かせてしまう。楽器の音色の温かみを活かしながら風通しのいいチェンバーな空間を作り上げるバトマングリ、現行のヒップホップやポップスも手がけるロスのモダンなサウンド構築が、彼女達のそうした持ち味にグッと奥行きを与えているのも素晴らしい。

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