「韓国のグラミー賞」として知られるKMA(韓国大衆音楽賞)で最優秀ダンスエレクトロニックアルバム賞を2度にわたって受賞し、韓国内の大型フェスでは必ずと言っていいほどラインナップに名を連ねるオルタナティブエレクトロバンドGlen Check。フレンチロックを彷彿とさせる洗練されたモダンシンセポップから、JusticeやDaft Punkを連想させるフレンチハウス、そしてUKロックのオルタナ感まで、彼らの感性が構築するサウンドはジャンルレスにフレッシュで力強く、そしてどこか懐かしさや青さを思い出す瑞々しさがある。
日本ではこれまで2度の『SUMMER SONIC』出演や、渋谷WWWでワンマン公演を行うなど根強い人気があった彼らだが、今年7月よりスタートしたNetflix『ボーイフレンド』の挿入曲として”Dazed & Confused”と”4ever”が抜擢されると、視聴者の間で話題が沸騰。再び多くのリスナーがGlen Checkの音楽を聴くきっかけとなった。
そんな彼らの最新アルバム『Bleach』の日本盤が、韓国のオルタナティブアーティストたちをサポートするシリーズ「K-ALT(カルト)」よりCDとLPでリリースされ、バンドとして9年振りに来日したタイミングでインタビューが実現。2025年1月には日本ツアーも決定した彼らに、『Bleach』の音楽スタイルや、これまでの活動について話を伺った。
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幼少期に過ごした海外で触れた、英語圏のオルタナティブミュージック
ーGlen Checkは長らくジュンワンさん(Vo / Gt)とヒョッキさん(Ba / Key)の2人でやられていましたが、2023年にジェイボさん(Gt / Key)が合流しましたね。3人の出会いは?
ジェイボ:多分2017年の梨泰院soap(ソウル市内にあった人気クラブ)での公演かな? Glen Checkのライブをきちんと観たタイミングは。
ジュンワン:そうかも。元々ジェイボは一緒にお酒を飲む友達でした。いつからか毎日のように一緒にいるようになったんですが、その頃ちょうどGlen Checkを2人だけでやるのがつまらなくなってきていて。ライブをもっとパワフルなステージにしたくなって、自然と合流した感じです。
ジェイボ:ただのローディーです(笑)。
ーいやいや、ギターもキーボードも弾かれて、欠かせない存在じゃないですか!
ジェイボ:冗談です(笑)。元々自分はプロデューサーとして活動していたんですが、ジュンワン兄さんから「ちょっと手伝ってくれない?」と連絡が来て、セッションメンバーとして合流したのが最初です。
ージェイボさんはGlen CheckのSNSで広報も積極的にやられていますよね。Vlogめっちゃ面白いです(笑)。
ジュンワン:そうなんです。ヒョッキと僕はSNSが苦手なので……(笑)。
ジェイボ:僕も得意なわけじゃないんですけど、頑張ってます(笑)。
ー(笑)。ジュンワンさんとヒョッキさんは2人とも釜山出身ですが、学生時代に出会ったんでしょうか。
ジュンワン:そうです。高校時代に出会いました。
ヒョッキ:ジュンワンさんは僕より1つ先輩なんですが、高校にバンド部があったので、そこで学生バンドを一緒にやってました。好きな音楽も似ていて楽しく遊んでたんですが、当時は「このままバンドで成功しよう!」みたいな考えは全くなかったですね。

ジュンワン(Vo / Gt)とヒョッキ(Ba /Key)を中心に結成され、2011年にEP『Disco Elevator』でデビュー。2012年リリースの『Haute Couture』、2013年リリースの『YOUTH!』で2年連続して韓国大衆音楽賞の最優秀ダンスエレクトロニックミュージック賞を受賞。韓国では大型ロックフェスの常連バンドとして知られ、日本でも2012年と2013年に『SUMMER SONIC』に出演したほか、アメリカ、フランス、ドイツ、香港のフェスにも出演するなど国内外で活躍。2023年にジェイボ(Gt / Key)が正式合流し、現在はドラムを加えた「Band Live Set」とエレクトロニックセットの「Electronic Live System」の2形態でライブ活動を展開している。
ー好きな音楽が似ていたということですが、どんな音楽に触れてきたんですか?
ジュンワン:特定のジャンルにハマるというよりは、広く浅くいろんな音楽を聴くタイプです。最初はシンセポップ感のあるスタイルでしたが、それは当時シンセポップをよく聴いていたからで、Duran Duran、New Order、Daft Punk、大沢伸一とか。日本の音楽もよく聴いていましたね。あと1980年代のイタロディスコも。

ヒョッキ:自分もジュンワンさんと同じように、Duran Duranとか、A Frock Of Seagulls、Pink Floydとかを聴いてました。どれもハマるフェーズがあるというか、とあるアルバムはめちゃくちゃ聴き込んだけど、じゃあ今も聴いているかと言えばそうでもなくて、全てはタイミングですね。
ーそのように様々な音楽に触れた最初のきっかけはありますか? 例えば、父親が聴いていたとか。
ジュンワン:まさに、父の影響です。幼い頃、日本、フランス、アメリカに住んでいましたが、父が運転する車で音楽をいつも聴いていました。当時、外の景色を眺めながら、「自分は外国人として海外で生活しているんだ」と思い耽った時、音楽しか頼れるものがなかったんだと思います。Duran Duranも父が好きな音楽でした。
ジェイボ:自分は中学生の時に友達から「バンドやろうよ」と言われたことがきっかけで音楽に触れて、楽器も初めて触れました。最初はピアノでしたね。
ヒョッキ:中学生の時アメリカに住んでいたんですが、学校でオーケストラをやっていたんです。その時に習ったテナーサクソフォンが初めて触れた楽器で、それから積極的に音楽をディグって聴くようになりました。

ーそこからどうやってGlen Checkがスタートすることになったんでしょうか。
ヒョッキ:高校卒業後にソウルへ上京したんですが、暇で(笑)。既にソウルに住んでいたジュンワンさんの家で、曲を作ったりしてよく遊ぶようになったんです。
ジュンワン:ちょっと話が遡るんですが、中学時代にMIDI機器に関心があって、捨ててあったコンピューターを自分で改造したんです。それを使って録音するのが趣味だったんですが、20歳の時にソウルに上京して、もう一度やってみたくなって。昔のことを思い出しながら、これが本当に音楽なのか、右も左も分からないままとにかく自分たちが聴きたいモノを作ろうと思って出来上がった曲が、Glen Check初めてのデモ曲になりました。
そのデモを、宅録アーティスト達が自分たちの作品をシェアしてたコミュニティサイトにアップしたんです。そしたらある日突然、そのコミュニティを通して自分たちを知ったレーベルの人から電話が来て。ライブもやったことがないし、バンドなんて学生時代の部活でしか経験してないのに、レーベルから「一緒にやりませんか?」と言われて、「どうしよう!?」って(笑)。でも、こうやってレーベルから連絡が来るってことは、「自分たちの音楽、結構良いんじゃない?」って。それでプロとしてやってみようと思って、今に至ります。

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全てを捨てて制作した『Bleach』と、こだわり続けるYouthというキーワード
ー作品についても話を聞かせてください。まず今回、日本のインディレーベルの老舗「P-VINE」内のK-ALTから『Bleach』の日本盤がリリースされましたね。
ヒョッキ:いつも話してたよね、いつか日本でもリリースしたいなって。
ジュンワン:うん。韓国はCDやバイナルなどのフィジカルの市場が小さいように感じていて。自分たちはサブスクリプションやデータではなくCDを聴く世代だったから、フィジカルがどれだけ大事なものかを理解しています。日本はまだフィジカルの販売市場があるしリスナーもいるから、いつか日本盤をリリースしたいなって話をいつもしていました。今回、タイミングよくこのような機会をいただけて有り難いです。
ジェイボ:P-VINE最高だ(笑)。

カルト的な没入感を持つ韓国(Korea)のオルタナティブ(Alternative)なアーティストたちをサポートするため、日本の老舗レコード会社・P-VINEが2024年に立ち上げたシリーズ。これまでにGlen Checkのほか、日英韓トリリンガルR&BシンガーのJiselle、DJ / エレクトロニックプロデューサーのswimrabbitの作品をリリースしており、11月20日(水)には韓国R&B界で注目を集める新鋭シンガーのOtis Limの1stアルバム『Playground』、12月4日(水)にはスムースで心地良いインディーミュージックを鳴らすorange flavored cigarettesの1st & 2nd EPが2in1作品としてリリース予定。
https://anywherestore.p-vine.jp/collections/k-alt
ーGlen Checkの音楽はエレクトロポップ、シンセポップなどサウンドの軸はありつつ、作品によって雰囲気はガラッと変化しますよね。一つのジャンルに囚われない自由さが魅力的だと思っているのですが、その中でも『Bleach』は今までのダンサンブルなアプローチよりも、やや内向的な印象を受けます。前作のアルバム『YOUTH!』から『Bleach』発表まで、約9年間と空白の期間も長かったと思いますが、そのような時間も関係しての作品スタイルなのでしょうか。
ジュンワン:そうですね。音楽を作っていくと知識やスキルが身についてくるじゃないですか。それらに囚われすぎて、「こうやったら、次はこうしよう」みたいなルールに縛られてしまっていたので、それを全て捨てて、もっと自由に音楽を作ってみたいと思ったんです。時間はかかってしまったんですけど、そうして出来上がったアルバムが『Bleach』でした。
ーアルバムに収録されている”Dazed & Confused”と”4ever”は、今年になってNetflixの恋愛リアリティショー『ボーイフレンド』の劇中歌として日本で話題となりました。皆さんにその反響は届いてましたか?
ジュンワン:「そうなのかな?」と思ったのは、Spotifyの再生数がグンと伸びた時ですかね。驚いた記憶があります。
ーYouTubeにアップされている”Dazed & Confused”のMVには、「『ボーイフレンド』の世界観とぴったりすぎる」「選んだ人のセンスがすごい」など多くのコメントが書き込まれています。タイトルの「Confused」は「混乱する」という意味ですが、どういう思いを込めて作った曲なのでしょうか。
ジュンワン:私たちにとってこの曲はYouthを意味します。考えすぎて混乱をし、もう何が何だか分からない! という瞬間に起こる感情の揺らぎが「Youth」。Youthという言葉の中で、いつも一番重要だと思っていることは「考えすぎない」ということです。
ーそのYouthという感覚を含め、歌詞は実体験を元に書かれているんですか?
ジュンワン:パーソナルな経験談を盛り込むよりも、経験から得たインスピレーションを込めてストーリーを作り上げています。歌詞は曲を聴く人たちにシェアするものなので。

ー「Youth」は過去にアルバム名としても使われていますが、昔からずっと変わらないメッセージなのでしょうか。それとも『Bleach』でより強くなった思いなのでしょうか。
ジュンワン:アルバムごとに伝えるスタイルは異なりますが、核心的な部分……Youthが含む青春という意味であったり、一度考えを捨てよう、リセットしようみたいなメッセージは変わらないですね。
今の若い世代の方たちもそうですが、考えすぎる場面がとても多い。それが良い方向に結びつくこともありますが、思考をリセットすることで得ることもあると、自分たちはYouthとともに知ることが出来たので、「時には何も考えないで」といつも伝えているつもりです。
ー青春とは悩むこと、みたいな感じでしょうか。
ジュンワン:そうですね。でも考えすぎるだけが青春じゃない。心配や悩みがないこともある。その境界線でいつも悩んで揺れ動く瞬間が美しいんだと思います。
ージュンワンさんも悩むことは多いんですか?
ジュンワン:若い頃はとても悩みが多かったです。未来についてだったり、生活についてだったり、『Bleach』の時で言えば兵役もあって個人的に暫く活動期間を空けないといけない時だったので、時間についての悩みであったり。でも、『Bleach』以降は悩まなくなったように思います。悩みを全部捨てよう、漂白しようという意味として、『Bleach』というタイトルにしましたし、このアルバムは自分の人生でとても大事なポイントとなる作品になりました。
悩みって尽きないじゃないですか。自分とヒョッキは国際高校に通っていたんですが、大学受験など色々なことにストレスを受けていました。当時は「どの大学に行けばいいんだ?」「どこなら安泰なのか?」などの話が出ていて、そこから自分が外れるとなんだか怖くなったりもする。でも、いつだって何かしらの悩みはあるんだから、そればっかりに囚われず、考えないでやってみることも大事だなと思うんです。

ー歌詞を書く時は、ヒョッキさん、ジェイボさんともお話しされるのでしょうか。
ジュンワン:ヒョッキとはアイデア出しとして沢山話をしますね。
ーヒョッキさんは一緒に過ごしている時間が長いと思いますが、歌詞についてはどう感じていますか?
ヒョッキ:『Bleach』を作る前と後の心境の変化は理解していたと思うし、歌詞の内容にも深く共感していました。でも、実際に「考えを捨てる」ことは、言葉にするのは簡単ですけど、すごく難しい作業なんです。今も努力している最中です。
ジェイボ:ヒョッキさんが一番考えるタイプなんです(笑)。
ヒョッキ:何かをするときに、頭で考えることが一番多いタイプかもしれない(笑)。
ーでも実際、皆さんが悩みながら作っているからこそ気持ちが伝わる曲ができているんだと思います。Glen Checkの音楽に触れると、Youthというワードが浮かび上がって自分の中に入っていく感覚があったので、お話を伺ってとてもしっくり来ました。
ジュンワン:僕らも歳をとりましたが、心にはいつもYouthを持ち続けていると思っています。
