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原作から変更された、主人公と時代設定

2024年にNHK-BSで放送され、話題を呼んだドラマ『舟を編む~私、辞書つくります~』が、NHK「ドラマ10」枠として再編集され、放送中である。三浦しをんの小説『舟を編む』を原作に、蛭田直美が脚本を手掛けた本作。馬締光也(本作では野田洋次郎が演じている)を主人公に、彼が玄武書房の営業部から辞書編集部に異動してくるところから物語が始まる原作と違い、本作は原作の後半部分に登場する、人気ファッション誌の編集部から異動してきた若手編集部員・岸辺みどりを主人公にしている。よって、物語は馬締(野田洋次郎)が香具矢(美村里江)と結婚し、辞書編集部主任になり、西岡(向井理)が営業部に異動になった原作後半から始まる。
なぜ、令和版『舟を編む』は主人公を「岸辺みどり」にしたのだろうか。それは、岸辺みどりが、旧態依然として見える辞書編集部に新風を吹き込む現代的な存在だったからだろう。本作の第2話で、みどりが「恋愛」の語釈を「異性同士」と限定する現状への違和を投げかけ、編集部員と荒木公平(岩松了)、松本朋佑(柴田恭兵)が議論する場面がある。原作においても、みどりは馬締に対し同一の疑問を投げかけるのだが、ドラマではこの場面をより象徴的に展開させたことで、「冷静で平等な言葉の観察者」としての辞書の役割を考えさせる、実に優れた回となった。また、夫婦となった馬締と香具矢の、辞書と料理という、それぞれの「好き」な世界を邪魔せずに尊重し合う自立した関係性も観ていて心地よい。