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「すてる」「はなす」「もつ」……まるで動詞のテーマパーク!

展示室の奥へ進むと、そこは動詞のテーマパークである。ほぼ全ての作品が体験型の「遊べる」作品なので、臆せずどんどんチャレンジしていこう。例えば写真手前の望遠鏡のような作品『のぞくをのぞく』は、覗きこむと自分自身の目が向こうから覗いている、というニーチェもびっくりの望遠鏡で、双方向に観察しながら観察される奇妙な体験ができる。自分の目の色や、まつ毛の生え際、今日のアイシャドウのラメの粒なんかをじっくり見つめるのはなかなかに新鮮だ。

会場内でも一際目立っているのは「すてる」エリアの作品『るてす』。ファンが巻き起こす風を利用して、天井に設置されたゴミ箱へ重力に逆らってゴミ(袋)を捨てるという体験装置だ。けっこう難しくて、ゲームとしてひとしきり夢中になってしまった後に「もし捨てるのがこんなに大変なんだったら、ゴミの量もさぞ減るだろうな」と思った。そうか、ポイ捨てが世の中からなくならないのは、放り捨てるその行為が「楽だから」なのか。そう意識するとなんだか情けない。ならば反対に、むやみに捨てないことの難しさをゲームのように楽しむことは出来ないだろうか?

「はなす」エリアにある『わかりましたの練習』は、言葉のイントネーションが引き起こすイメージについて考えさせてくれる作品。文字パーツを自由な高さで並べて「はなす」ボタンを押すと、機械音声がその調子で「わかりました」としゃべってくれる。自然なイントネーションを一発で導き出すのはこれまた意外と難しく、違和感のあるイントネーションだと、笑えるほど「わかった」感じがしない。人に物事を伝えるためには、どうも途中で上がって(発見)最後に下がる(定着)音の流れが必要なようだ。会話では、言葉そのものの意味に加えて、音の動きが大きな役割を果たしていることが分かった。対面なら、さらに表情や仕草の持つ情報もそこに加味されるだろう。日々私たちはなんて高度で複雑なやり取りをしているのだろうか。

「もつ」のエリアにある、バラエティ番組で見かける電極棒のような『もちはこびトライアル』は、持つという動作の繊細さを味わう体験型作品。持ち運び中にパイプに触れる(ミスする)と、その瞬間に「あ!」と音声が鳴り、頭上のランプが赤く点灯する。すると挑戦者はそれに動揺して、さらなる「あ!」が引き起こされる……という、強い精神力を求められるアトラクションでもある。なお、ゴール後には妙に冷静な声で「あなたは〇〇回触れました(デデーン)」と成績を教えてもらえる。己の弱さを痛感する瞬間である。

「かく」エリアの作品『かくかくじかじか』も非常に面白かったのでご紹介しておきたい。手元のモニターにタッチペンで指定された言葉を書くと、自分自身の文字が分解 / 再構成されて、全く異なる言葉がモニターに浮かび上がる、というものだ。筆者は「よわい」と書いたつもりが、画面にはそれと同時に「つよい」と文字が書かれていき、あまりの不条理につい「あっ!?」と声が出てしまった。どうも「わ」の1パーツが「つ」として暴走したらしい。文字のひとつひとつは約束事通りに並べた線や図形の集まりなのだということを、この作品を通じてあらためて実感した。