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西島秀俊の演技論。ポジションや導線、ロケーションが俳優の演技に与える影響を語る

2025.9.5

#MOVIE

俳優の演技に導線やロケーションが与える影響

―さきほども挙がった賢治とジェーンとの会話や口論についてですが、セリフだけではなく、2人のポジションや導線によって夫婦の関係性や心の内側が表現されていると感じました。

西島:そうですね。僕やルンメイさんの座る位置など、真利子監督による演出のおかげだと思います。最初に口論となる場面など、実際に言われた通りに動くと、感情や状況の変化などとも合っていることが多かったです。最初にいる位置から、セリフのやりとりを通じて2人の関係性が変わる過程で、賢治とジェーンが物理的にどの位置にいるのかを、2人の心の距離感の変化なども考えて演出されていたと思います。

―その後の場面も、2人のポジションなどが夫婦の関係の変化を表しているようでした。やはり導線というのは、演者の演技に大きく影響するものでしょうか? 座る位置や立つ位置が違うだけで、違う芝居になりますか?

西島:もちろん、それは大きく影響すると思います。まずどこにいるのかというのが大きいので、違和感があるときには監督と話して、「やはりこっちに座っていましょう」となったりすることもあります。

ただ、真利子監督の場合は、導線に関してものすごくこだわっているというよりも、人物と人物の位置関係も含めて、「場」をとても意識されていると感じます。実際その場に行ったときに、この人物は今こういう心情なんだと、納得させられるような場を用意されていると感じました。

『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』場面写真 ©Roji Films, TOEI COMPANY, LTD.

―真利子監督作品のロケーションはたしかに素晴らしいですね。西島さんが今回、特に「場」を意識されたシーンはどこでしたか?

西島:やはり廃墟でしょうか。他の監督なら撮影しないような廃墟でした。階段も「2段以上は上らないでください」と言われたり、スタッフが防塵タイプのマスクをして撮影したりするような場所でした。

ニューヨークで撮影すると言っても、観光地のような場所ではなく、ブルックリンの片隅にあるストリートや、チャイナタウンの古い家など、どこか忘れ去られそうな、朽ちていきそうにも感じられる場所です。

真利子監督が選ぶ場所には特徴がありますよね。『ディストラクション・ベイビーズ』の港町なども印象的でした。登場人物がそこにいるだけで、そのキャラクターが伝わってくるような場所を選ばれていると思います。

―その場所に行くと、演技の方向性が見えるということでしょうか?

西島:意識的にも、無意識的にも演技に大きな影響を受けます。真利子監督が撮影前にロケ地の写真を見せてくれましたが、それで役の心情について理解できることがありますし、演技の助けにもなります。また、実際にその場に行くと、より強く感じることもたくさんあります。

―導線の話に戻りますが、西島さんのキャリアの中で、これは演技がしやすいなと感じた作品などはありますか?

西島:黒沢清監督の作品ですね。導線に関して本当に天才だと思います。俳優の生理に合わないことはさせないんです。俳優の無意識的な動きまで計算して、空間の中に物や小道具を配置されるのですが、演じる側としても本当に不思議でおもしろいです。黒沢監督は長回しを撮る際に、いつも図まで描いて「こうやって動いてください」という説明をしてくれます。

西島:普通は、長回しの撮影で指示が多いと演じにくいはずなんです。長いセリフを話しながら、これとこれをやって、移動して……と、どんどん覚えることが増えていくわけですから。ところが、黒沢監督の演出は、むしろ俳優が演じやすくなっていきます。黒沢監督は、セリフ、セリフを発する俳優の心理状態と動き、そしてカメラをすべて計算されているのではないかと思います。濱口竜介監督も、ポジションに関してとても厳密な指示を出しながら撮影されていました。

その中でも特に黒沢監督の『LOFT ロフト』(2005年)が印象的でした。とても不思議な導線だったんです。「このセリフの時にこう行って……まあ行かなくてもいいんですけどね」「ここにある水を飲んで……まあ飲まなくてもいいんですけどね」みたいな感じで(笑)。

―どっちなんだ、みたいな(笑)。

西島:ただ、実際に指示通りに動くと、それらがすべて役の動きの流れにことごとく合っているので、その通りに動いてしまう。俳優が無理やり身体を動かしているわけではないのですが、黒沢監督の演出に見事に動かされているという不思議な感覚になってくるんです。この不思議な感覚の秘密は、いつか誰かに分析していただきたいです。

―黒沢監督作もですが、今作も真利子監督の作家性の強い映画になっています。そうした作品に関わっていきたいなど今後の思いとしてもあるのでしょうか?

西島:そうですね。僕自身、アート映画や、作家性の強い作品などが好きでよく観ていますし、自分自身も関われることが楽しいです。独立したのは、自分がやりたいことに挑戦できるようにするためです。今後、そうした作品に自分の力を込められるのではないかと感じています。

『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』

2025年9月12日公開
上映時間:138分
製作:2025年(日本)
監督:真利子哲也
出演:西島秀俊、グイ・ルンメイ
配給:東映
公式サイト
©Roji Films, TOEI COMPANY, LTD.

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