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エモいバイブスだけじゃない。カトパコの快進撃の背景
彼らの魅力を列挙するなら、ピアスと刺青だらけのキャラ立ち充分なルックス、ジャンル雑食かつ美しいハーモニーを奏でるハイセンスな楽曲、音楽への愛と友情が一体となったバイブス——といったところだろうか。
最新作『PAPOTA』収録の“IMPOSTER”や“#TETAS”は特にわかりやすいだろう。SNSを介した急激な人気の上昇、自分たちを急速に飲み込もうとする「音楽産業」への戸惑いが描かれるこの2曲には、そんな彼らの魅力がたっぷりと詰まっている。
露悪的で皮肉っぽいジョークを好む一方で、ナイーブさの隠しきれない歌声——アシッドジャズからディープハウス、あるいは90’sボーイバンドのパロディーと、バックトラックの音楽的なギミックもいちいち芸が細かい。美しい歌心と、その照れ隠しのようなユーモアが同居する様子は『Flower Boy』(2017年)以降のタイラー・ザ・クリエイターにも重なるかもしれない。
そしてまた、彼らの人気には「追い風」がある。カトパコの熱狂を後押ししているのは、「ミレニアル・ラティーノ」とでも言うべき、新世代のラテン系 / スペイン語圏ミュージシャンの活躍だ。バッド・バニーを始め、カロルG、ラウ・アレハンドロ、J. バルヴィン、ロザリアなど。音楽メディアからTikTokまで、彼らの奏でる音楽は世代も言語も超えて、支持されている。
もちろん、ラテン系のポップスターは彼らが初めてではない。リッキー・マーティン、シャキーラ、ダディー・ヤンキーと、日本でも人気を博した先人たちの切り拓いた道がそこにはある。
「ミレニアル・ラティーノ」がそこと異なるのは、例えば英語とのバイリンガルもしくは母国語を尊重したボーカル、「男はマッチョ、女はセクシーに」という従来のラテン系に求められていた固定的ジェンダー観からの逸脱、インターネットネイティブ的な感性による自由なジャンル横断とラテンミュージックの伝統の両立……こういった「新しさ」が、バッド・バニーやカロルGらには共通している。
言語、非マッチョ、音楽性——もちろん、カトパコにもこれらの特徴は当てはまる。スラングたっぷりのスペイン語でラップし(※)、マッチョになり切れない弱い自分をさらけ出し、レゲトンもボサノバもトラップもフュージョンも切ない歌声でまとめ上げる——。
※筆者注:最新EP『PAPOTA』もアルゼンチンのスラングで、強い男、ステロイド使用者を意味する
補足的に言うならば、非英語 / 母国語によるボーカルでも世界的なヒットを掴むアーティストは年々増えつつある。K-POPの国際的な飛躍は言わずもがな、イタリア語で歌う“ZITTI E BUONI”をきっかけにブレイクしたMåneskinもその一例だろう。先ほどから何度も名前が出ているバッド・バニーの『Un Verano Sin Ti』(2022年)は「全編がスペイン語のアルバム」として初めて『グラミー賞』の主要部門のひとつ「年間最優秀アルバム」にノミネートされた。
その背景には、ストリーミング時代によるマーケットの流動化、SNSとファンダムのグローバル化、言葉の内容よりもまずサウンドとしての響きや個性的なビジュアルなどファーストコンタクトの衝撃が求められるInstagramやTikTokの影響力などが挙げられるだろう。
そんな時代に登場した、CA7RIEL & Paco Amoroso。アルゼンチンを飛び出し、欧米の音楽シーンをも巻き込みながら、その名前は着実に世界へ広がっている。
そして2人がこの夏、日本にやって来る——母国の真裏という、恐らく彼らにとっても印象深いであろうこの地で、その音楽はどのように響くのだろうか。まるでエモいバディもの青春映画のクライマックスのような瞬間に、我々は立ち会えるかもしれない。

▼リリース情報

CA7RIEL & Paco Amoroso |カトリエル&パコ・アモロソ
『PAPOTA | パポタ』(CD)
国内盤<世界初CD化>
2025年7月16日(水)リリース価格:2,600円(税別)
1. IMPOSTER | インポストール
2. #TETAS | #テータス
3. RE FORRO | レ・フォロ
4. EL DIA DEL AMIGO | エル・ディア・デル・アミーゴ
5. DUMBAI – Live at NPR MUSIC’s Tiny Desk | ドゥンバイ(ライヴ・アットNPR MUSICタイニーデスク)
6. EL UNICO – Live at NPR MUSIC’s Tiny Desk | エル・ウニコ(ライヴ・アットNPR MUSICタイニーデスク)
7. Mi Deseo/BAD BITCH – Live at NPR MUSIC’s Tiny Desk | ミ・デセオXバッド・ビッチ(ライヴ・アットNPR MUSICタイニーデスク)
8. BABY GANGSTA – Live at NPR MUSIC’s Tiny Desk | ベイビー・ギャングスタ(ライヴ・アットNPR MUSICタイニーデスク
9. LA QUE PUEDE, PUEDE – Live at NPR MUSIC’s Tiny Desk | ラ・ケ・プエデ・プエデ(ライヴ・アットNPR MUSICタイニーデスク)
10. DUMBAI | ドゥンバイ *ボーナス・トラック
https://ca7rielpaco.lnk.to/Papota_JP