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文化を継承する場所としてのミニシアター
―作家性の強さといえば、木津さんはフランス映画にも注目されていますね。
木津:クセの強い作品を観る土壌が育っていると、フランス映画などもワールドワイドに受容されていくようになるんでしょうね。実際、作品としても力のあるものが増えてきました。その象徴がなんといっても『サブスタンス』(コラリー・ファルジャ監督)だったなと。

木津:『サブスタンス』はアメリカ、イギリスとの合作ではあるんだけど、僕はやっぱりフランス映画と言っていいと思っています。『TITANE/チタン』(ジュリア・デュクルノー監督 / 2021年)などに代表される、新世代の女性監督の活躍、そしてジャンルミックスすることで変な映画を作るというここ数年のフランス映画の流れの1つの到達点だと感じました。デミ・ムーアみたいなキャリアを重ねたハリウッド俳優が変わったフランス映画に出たがるのが今っぽい流れだなと感じますね。
長内:僕は上半期、『サブスタンス』と『けものがいる』(ベルトラン・ボネロ監督)を観て、両方ともにあてはまるのは、フランス映画ではあるけど、根底にはかつてのアメリカ映画への憧憬や、影響があるということでした。コラリー・ファルジャもばりばりアメリカ映画好きな人ですよね。ハリウッドのジャンル映画を観て育った人たちが、自分の育った地域で自身のアイデンティティにまつわる話を撮っているんだなと感じました。
木津:そうですね。一方でゴダールからの流れもやっぱりあって、『イッツ・ノット・ミー』(レオス・カラックス監督)はすごくゴダールの映画を意識している作品です。カラックス本人の来日もあって、日本でも盛り上がったと聞きます。
あと海外ではすでに高い評価を受けているにも関わらず、日本では限定した形でしか上映される機会のなかったアラン・ギロディ監督作品の特集があったのもうれしい驚きでした。ミニシアター規模ではあるけど、結構、観客も多かったと話題になっているんですよね。
木津:もちろん「東京など主要都市でしか観られないじゃないか」みたいな話はあると思うんですけど、最近、地方のミニシアターの方々もすごくがんばっていて、どんどん小さな映画が全国で順次公開されていく流れもあるんです。海外での受容の話はさきほどしましたけど、日本でも作家の映画、ユニークな映画を観るという土壌ができつつあると思います。その中の1つとして、フランス映画は重要なものとしてあるんじゃないでしょうか。
長内:ミニシアターに勢いのあった時代は、みんな変な映画も見ていたはずなんですよね。だから、ようやく文化がまた1巡して戻ってきたのかな。そういう文化の継承、継続を意識的に行ってる人たちがいるってことですね。
―さきほどのアラン・ギロディもそうですが、文化の継承ということで言うとリバイバル上映も引き続き、勢いを感じました。
木津:特集上映やレトロスペクティブで良いものがあまりに多くて、そっちで忙しくなる傾向が近年ありますが、この上半期もそうでした。テレンス・マリックを劇場で観られるのも幸福でしたし、エドワード・ヤン『カップルズ』(1996年)が20代の映画好きのあいだで盛り上がっている話を聞けたのもよかったです。
木津:少し前まで、過去のクラシック作品が良いのはわかっているから、そればかり観られるのはちょっと寂しいなと思っていたんです。でも『カップルズ』を観て、それが変わりました。エドワード・ヤンが当時の台湾の姿を、リアルタイムに撮ることに賭けていたのだと伝わってくる。だからリアルタイムの作品を観る意義もこの作品を通して改めて感じました。また、今の映画を観る人たちの感性を育てることにもつながるので、クラシック映画を観ることに対して、最近はポジティブに感じられるようになりました。
長内:僕はロベール・ブレッソン『白夜』(1971年)を今回、初めて観たんです。渋谷のユーロスペースに行ったら、若い観客が多かった。あとテレンス・マリック『バッドランズ』(1973年)のときは客層が少し違って、日本で『地獄の逃避行』というタイトルでテレビ放映された当時のファンなのかなという人もいました。どちらも劇場の暗闇で観られるべき作品です。
長内:今、かつての作品を観ると、これが現在の作家に繋がっているんだなと発見もあるし、本当に良い体験だと思います。あと僕の友人で1年に数回しか映画館に行けないというビジネスパーソンと会ったら、「このあいだ大昔に一度劇場で観た『天国の日々』(テレンス・マリック監督 / 1978年)を観てきたんだよ」と言い出して。そういう人たちと劇場の絆を繋ぐものにもなっているんだなと感じました。
木津:ひと口にレトロスペクティブと言っても多様ですもんね。7月以降もインドの巨匠サタジット・レイ特集のようにザ・クラシックなものから、『リンダリンダリンダ』(山下敦弘監督 / 2005年)のように20年前の名作をリバイバルみたいなものまであるので。日本の映画文化、映画受容が良い方向に変化していくのかもしれないと希望を抱いています。