INDEX
誰もが当事者になる可能性があり、ハマるかもしれない落とし穴

本作の原作は谷口菜津子による現在絶賛連載中の同名漫画。何を隠そう筆者は、Xで原作漫画を読んで以来、大ファンとなり単行本を買い続け、新刊の発売を待ち侘びる読者のひとりだ。そんな筆者が初めて原作『じゃあ、あんたが作ってみろよ』を読んだ時に感じたのは、脳天を撃ち抜かれるような衝撃的なおもしろさと、長年あったわだかまりがスッと消えるような爽快感だった。だがその一方で、胸の奥に居心地の悪さも抱えていた。
それはなぜかと考えてみると、『じゃあ、あんたが作ってみろよ』は、特殊な誰かを嗤う物語ではなく、全人類に共通する「ケア」の物語だからだろう。勝男と鮎美が右往左往しているのは、ダメな人間だからではない。本作は「男と女」「都会と地方」「新世代と旧世代」といった対立構造を煽るための物語でもない。誰もが当事者になる可能性があり、ハマるかもしれない落とし穴を、通称『あんたが』は描いているのだ。
たとえば、日常生活の中でパートナーには気を遣えていたとしても、自分の母親にはどうだろう。「おいしい」は伝えていても、あたたかいご飯が出てくることを「当たり前」だと思っていなかったか。食器を下げたら終わりで、特に片付けをしたこともなかったのではないか。「ありがとう」をちゃんと伝えたことはあったかな……と、過去の自分のやらかしを思い返せばキリがない。勝男の問題と同様に、自らが掲げる「女の子らしさ」に首を絞められ拗らせている鮎美の姿も、他人事には思えなくなってくるのである。